川柳えむ

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7/13/2025, 5:38:49 PM

 たのしい。あの人と一緒にいるのは。
 すばらしい日々。
 ケイケンをたくさんさせてくれるの。
 手紙を送るね。心配しないで。


『隠された真実』

7/13/2025, 5:18:18 AM

 夏。エアコンが壊れた暑過ぎる部屋の中。
 昔使っていた扇風機を引っ張り出して、大の字で床に寝転がっていた。
 少しでもさらに涼しくなりたいと、気休めにしかならない風鈴も飾り、その音を聴きながら目を閉じる。
 暑い。音だけが、涼しい。
 音に集中しているうちに、徐々に意識は遠のいていった。


『風鈴の音』

7/11/2025, 10:42:02 PM

 ガララッと大きな音を立て、教室の扉が乱暴に開かれた。
 現れた男は、授業中だというのに、ツカツカと早足で中に入ってきた。そして、私の机の前で立ち止まると、こちらに声を掛けてきた。
「あなたはこんなところにいてはいけない。さぁ、行こう」
 そう言って、手を伸ばしてくる。
「何!? どういうことなの!?」
 私は目を丸くして言った。
「あなたには役目がある。姫」
 私を『姫』と呼んだ彼は、伸ばしてきた手で強引に私の腕を掴むと、そのまま教室から引っ張り出した。
 周りの声も聞こえないほど、ドキドキしていた。
 まるで逃避行のよう。
 彼は顔も整っていて、声も良かった。急に現れて、めちゃくちゃなことを言っているけど、それすら許されてしまうような。とにかく、素敵な人だった。
 気付けば、私は見知らぬ地にいた。ここは――異世界?
「あ、あの……」
 ようやく立ち止まったので、彼の背中に声を掛けた。
 彼はこちらを振り返ると、掴んでいた手を離し、頭を恭しく下げた。
「突然すまない。世界を探し、異世界まで探して、ようやくあなたを見つけたんだ。思わず乱暴な行動に出てしまった」
 何がなんだかわからないけど、そこまでして私を探していたなんて。さらにドキドキしてしまう。
「私の名前は『アレクサンダー』。『アル』と呼んでくれ」
「え、えっと、私の名前は『幸田 陽菜』。『ひな』って呼んでください」
「姫……いや、ひな。どうか、この世界を救ってくれないか」
 顔を上げ、真剣な眼差しでこちらをまっすぐ見つめてくる。
 世界を救う!? 私が!?
 一体、これからどうなっちゃうの~~~~!?

 ――という妄想をしていたら、退屈な授業が終わった。
 あぁ、このスマホの乙女ゲームみたいに、こんなことが起きたらなー。アル様に会いたいなー! まぁ有り得ないことはもちろんわかってるけどね。


『心だけ、逃避行』

7/10/2025, 10:42:13 PM

 16歳の誕生日、勇者は王様に呼び出され、魔王退治を仰せつかった。
「未成年になんてことを頼むんだ」

 魔王を倒すには、まず伝説の剣を手に入れなければならない。
 勇者は武器屋へ行くと、店主に告げた。
「伝説の剣ください」
「ヘイ、毎度!」
 160Gを支払い、勇者は伝説の剣を手に入れた。

 早速伝説の剣を振ってみる。
 試し切りと称して木を切ってみたら、スパッと切断された。これはいい。
「うむ、やはり素晴らしい切れ味だ」
 かぼちゃみたいな硬いお野菜も簡単に切れちゃうぞ。

 武器も揃ったし、レベルを上げつつ、魔王城へと向かわねば。
 勇者は町の外へ出た。
 魔王が現れた。
「なんでいきなり魔王とエンカウントしてんの!? 普通スライムからだろ!?」
「そりゃ魔王だってお忍びで旅行くらいするよ」
 勇者は大いに納得した。

「魔王! 覚悟!」
 勇者:レベル1
 魔王:レベル99
 勇者は力尽きた。

 さらに魔王が何か呪文を唱えている。
「いでよ! 我が下僕たち!」
 ゴブリンやオークなどが大量に出現した。
「いや待って! もう力尽きてるから!」
 オーバーキル。

「やはり俺にはまだ早かったみたいです」
 復活した勇者は王様にそう報告した。
「そうか。仕方ない。こうなったら城の軍総出で魔王を迎え撃つぞ!」
 かくして、数の暴力によって魔王は倒され、世界に平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし。

「勇者ってなんだろう?」
 勇者はその存在意義について38秒ほど考え込んだという。
 それでも勇者はめげない。いい体験になったと、いい冒険に出られたと思おう…………本当か?


『冒険』

7/10/2025, 9:06:30 AM

 愛している人と想いが通じ合った。
 届かないと思ってた。届いてほしいと願っていた。それが、届いた。
 それでも、課題は山積みだ。

 伯爵家のお嬢様である私は、従者のことをずっと想っていた。身分違いの恋。だから、どうしようもないとわかっていた。それでも、諦めたくなかった。
 どこかの貴族の男との結婚話が出て、ようやく、私達は素直になれた。
 ただ、今日はその顔も知らない男との顔合わせの日だった。

「体調不良ということにしておきましょうか。だって、その顔じゃ出られないでしょ。酷い顔してますよ」

 想いが通じ合った相手に言う言葉がそれ? たしかに、嬉しくて流した涙で顔はぐちゃぐちゃだけど。
 従者だろうが、恋人だろうが、彼は変わらず彼だった。

「ううん、行く」
「本気ですか?」
「うん。大丈夫。ちゃんと話してくるよ」

 従者の心配をよそに、私は初めて会う婚約者の前へと出向いた。
 もちろん、お断りの為に。

 そして、お父様からの雷が落ちた。

 わかっていた。きっと許して貰えないだろうと。
 私は伯爵家の娘。家の為に、格上の貴族と結婚するのが私の役目だった。
 それでも、お父様にわかってほしい。この気持ちが届いてほしい。ただのわがままだけど、どうしても譲れない気持ちがある。
 どうか、わかって。届いて。

「許せるわけないだろう!」

 お父様が机を力強く叩いた。

「おまえは、この家を捨てるだけでなく、これまでのおまえ自身の全てを捨てることになるのだぞ! それでも幸せになれると、本気で思っているのか!」
「いいえ、お父様! 私にとっての幸せは、この家にあるのではありません! 彼といることこそが私の全てで、私の幸せなのです!」
「わからぬか!? おまえが選ぶ道は、決して平穏な道ではないのだ。親として、そんな道を行かせられるはずがない!」
「そんなことはわかっています! 覚悟しています! それでも二人で生きていきたいの!」
「申し訳ありません、ご主人様。しかし……」
「従者が口を出すな!」

 お父様が私達二人を呼び出したのに、理不尽極まりない。

「ええい、もうよい! 一度部屋に戻り頭を冷やせ! 従者もだ。今日からは娘に仕えなくてよい! しばらく謹慎だ!」
「お父様!」
「ご主人様! ……承知いたしました」

 こうして、私達は話し合いの場を追い出され、そのまま自分の部屋へと連れて行かれてしまった。
 お互いに部屋を出ることを禁じられ、彼と話をすることもできない。でも、そんな言い付け、聞くはずがない。
 みんなが寝静まった深夜、部屋をこっそり抜け出して彼の部屋を訪れる。小さい頃から何度も屋敷を抜け出した実績があるのに、舐めないでほしい。

「お嬢様っ……!? なんて時間に……! 駄目ですよ。夜中に男の部屋を訪ねちゃ」
「でも、こうしなきゃあなたに会えないじゃない」

 彼の静止を無視して部屋の中へと入る。
 屋敷に仕える者の為の、こじんまりとした部屋。それでも、一人部屋だったのが幸いだった。

「もう。私達、駆け落ちするしかない」
「お嬢様! ……でも、ご主人様の言うことも最もです。私のような者があなたを愛すること自体が間違いなのですから」
「そんなの、私だってあなたを愛しているんだから、お互い様でしょ」
「それでも! 私に失うものは何もないのに、あなたは失うものが多過ぎる……。貴族であるお嬢様を平民にしてしまうことになるのですよ。それでも……本当によろしいのですか? 私と共に、そんな道を……」
「しつこい! 何を今更言ってるの! お父様にも言ったでしょ。あなたといることが私の幸せで、あなたが私の全てなんだって!」

 力いっぱい胸を叩く。これは私の本心だ。後悔なんてするはずがない。
 彼は、そんな私を優しく抱き締めた。

「……お嬢様は、ドMなんですか? 私にこんな風な扱いをされても、平民に落ちても、それでも私と一緒にいたいだなんて……」
「あなたね……。……言い合える相手がいないと、つまんないじゃない」

 私も彼の背中に手を回し、優しく抱き締め返した。


 娘が屋敷を出ていった。誰にも気付かれないよう、夜中に、静かに。娘の愛する者と共に。
 もしかしたら誰か手伝った使用人がいるのかもしれない。だとしても、わかりようがない。わかったところで、きっと娘は帰ってきてはくれないだろう。
 娘は気の強い子だ。やるといったら必ずやり遂げる。自分を曲げない子。
 だからきっと、どれだけ辛いことがあっても、幸せになるのだろう。
 ――それでも、私の気持ちもわかってほしかった。
 娘に苦労させたいなんて思う親がいるはずもない。今まで積み上げてきた全てを失って、何もないところから始めることを、歓迎できるわけがない。ただ、貴族として、幸せになってほしかったのだ。
 その気持ちは届かなかった。
 私が今できることは、遠くへ行ってしまった娘の幸せを祈ること。どうか、その思いが届いてほしい。


『届いて……』

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