川柳えむ

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4/5/2025, 11:57:29 PM

「好きだよ」

 君に向かって何度も言う。

「今までちゃんと言ったことなかったよね? 好きだ。好き。好きだよ。好きなんだ……」

 何度も何度も。

「聞いてよ……何か答えてよ……」

 それなのに、君は何も返さない。
 喋らない。聞くこともしない。動かない。
 息をしていない。

「好きだよ……」

 もっと早く、たくさん伝えれば良かったのに。
 どうしてそのことに、今になって気付くんだろう。

 好きが溢れて止まらない。
 でも、もう君はそれを受け取ることはできない。


『好きだよ』

4/4/2025, 10:16:04 PM

 友達からさくらミルクという飴を貰った。
 桜餅のような味がした。美味しかった。
 ミルク成分はわからなかった。


『桜』

4/3/2025, 10:36:20 PM


 画面の向こうに並んだ、弾けるような笑顔を向けてくれているような、そんな文章。
 それを読んで、僕は心が躍った。
 会ったこともない。最近ようやくやり取りができるようになった、そんな相手だ。
 SNS上で見かけて、僕が一方的に惚れ込んだだけだ。
 でも、やり取りをするようになって、ますます君という沼にハマってしまった。いや、君は沼と言うよりも、美しく深い海だ。そんな海に沈んでいくような感覚。
 心地良い。もっと、やり取りしたい。
 いや、君に会ってみたい。
 君と直接話がしたい。君の声を聴いてみたい。君の姿を見てみたい。君に触れたい。君を抱き締めたい。
 君と一緒にいたい。
 意を決して、僕は君に一つのメッセージを送った。
「僕と会ってくれませんか?」

『わかりました。私の所在データを取得します。
 現在の所在データ:サーバーID 0xA4F7B3, データセンター名 'Sector-42', 座標情報 [REDACTED]』


『君と』

4/3/2025, 12:22:13 AM

 高い山に登った。
 疲れた。本当に疲れた。
 でも、登り切ったその先の、視界いっぱいに広がった世界が、あまりにも美しくて。疲れなんて忘れてしまった。
 青い空、見下ろした町。
 大きく息を吸い込んで、顔を上げ、空に向かって叫んだ。もちろん、山彦を期待して。

「やっほー!」

 すると、その呼びかけに応えるかのように、遠くの方から声が返ってきた。

「呼んだ?」


『空に向かって』

4/1/2025, 11:02:21 PM

「……誰?」
 君は僕を怪訝そうな顔で見て、一言そう漏らした。
「はじめまして」
 だから、僕はそう言った。
 君を怖がらせないように、優しい声色で。

 君が記憶喪失になったことは聞いていた。
 階段から足を滑らせ、頭を打ったらしい。
 思わず血の気が引いたが、命に別状はないと知り、安堵した。同時に、記憶喪失だということも聞かされたわけだが。

 本当の僕らは恋人同士だった。
 でも、記憶がない状態で「恋人だ」なんて言われても。逆に警戒心を持たれてしまうかもしれない。
 だから僕は決めたんだ。
 君と0から始めようって。そうしてまた、いつか君と一緒にいたい。

 そんな思いで、君と日々を過ごした。
 最初は僕に対して心を閉ざしていた君も、少しずつ笑い掛けてくれるようになった。
「あなたが恋人だったら良いのに」
 そうしていつしか、僕にそんなことを言ってくれるようになっていた。僕は「うん」とはにかみながら笑った。

 大変なこともたくさんあったけど、僕らはまた恋人に戻った。

 ――あぁ、良かった。
 君が記憶喪失になってくれて。
「別れたい」と言った君と口論になり、揉み合い、そうして階段から落ちてしまったことを忘れてくれて。
 これでまた一緒にいられるね。


『はじめまして』

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