世界の終わりに君とディナーがしたいとカッコつけたこと言ったら、じゃあ行こう! となり、近くにこんな素敵なお店があることを知った。
言ってみて良かった。そんな余裕ないなんて言われたらどうしようかと思った。
テラス席で美味しい料理を頬張る。幸せな気分だ。
テーブルの真ん中に置かれた淡いランプの光に照らされた君は、一段と美しく見えた。
「良いお店ですね」
次の料理を運んできた店主らしき男にそう告げると、彼は嬉しそうに笑った。
「このお店は私の夢が詰まっていますから。最後まで見ていたい私の夢なんです」
なるほど。彼にとって何よりも大事なものがこのお店なんだ。
だから、こんな状況で一人でもお店を続けている。
そう、本当に世界が終わりそうなこの状況でも。
ある日突然、地球を征服しに宇宙人が攻めてきた。
徐々に侵略され滅んでいく地球。もうすぐここも終わりだろう。
空がぱっと明るく輝いて、思わず顔を上げる。
空からは無数の光の帯が降り注いでいる。その光景のあまりの美しさに息を呑んだ。
「綺麗だね」
君は言った。
「そうだね」
僕は静かに頷いた。
『世界の終わりに君と』
俺は史上最悪の魔王だ。
極悪非道! 残虐な、泣く子も黙る魔王だ!
「魔王! 覚悟!」
勇者が城に乗り込んで来た。
馬鹿め……どうなっても知らないぞ?
城に爆音が響き渡る。
そうして、ボロボロになった。俺。
「なんか……弱くね?」
「かわいそうになってきた……」
そう。俺は、魔族の奴らにとって、史上最悪の魔王だ。
威厳なんてない。弱い。情けない魔王だ。
「き、今日はここまでにしてやろう」
同情した勇者が帰っていく。
史上最弱で、最高に情けない、最悪の魔王は、こうして今日も魔界の平和を守っている。
『最悪』
私には誰にも言えない秘密がある。
当然誰にも言えないのだから、それは一人で墓場に持っていくくらいのもの。
たまに吐き出してしまいたくなる。誰かに聞いてもらいたくなる。
けれど、それすらできない。することは許されない。それだけの秘密を持ってしまったのだ。
でもきっと、誰だってそんな秘密を持っている。だから、そんなに自分を責める必要はないのかもしれない。
でも、この秘密抱えてしまったことは、この秘密を話すことは、きっと許されることじゃない。だから、これこそが私への罰だ。
それでももし、私が話したくなってしまったら、貴方はこの秘密を何も言わずに聞いてくれるのだろうか。
私の、死ぬまで抱えていく、今はまだ誰にも言えない秘密を。
『誰にも言えない秘密』
私にとって、ここは狭い部屋だった。
こんな狭い所にはいられない。私には似合わない。
だから、もっともっと広い部屋を手に入れることにした。
そうして、私は宇宙に出た。
こんな狭い部屋――地球にはいられない。
もっと広い宇宙を手にする為に。この宇宙は私の為にあると信じて。
『狭い部屋』
帰り道、憧れの先輩と二人きりになった。
誰にでも優しい先輩は、私にも優しかった。勘違いしてしまいそうになる程に。こんな短い時間で、深みに嵌まってしまう程に。
本当はずっと好きだった。それを『憧れ』という言葉に押し込めていた。
……あぁ、帰りたくない、と思ってしまう。
「あの……」
立ち止まると、先輩もそれに合わせて立ち止まってくれた。
「ん? どうしたの?」
優しい微笑みを浮かべて、私を見てくる。動悸が速度を上げる。
「あ、あの……そのっ……!」
言葉が上手く出てこない。
ひとしきり「あー」だの「うー」だの訳の分からない言葉を発して、そうして、ようやく出てきたのは――
「せ、先輩って、す、好きな人って……いないんですか?」
――そうじゃない! そうじゃないでしょ、私!!!!
そんなことを頭の中で叫ぶ。本当は好きだって伝えたいのに。
勇気の出ない自分に悲しくなりながら、私は先輩を見た。
そして――
あ……。
一瞬の表情を見て、気付いてしまった。
とても愛おしいものを見るような目、それなのに、とても哀しそうな笑顔。そんな表情を一瞬させて、あとはまたいつもどおりの優しい笑顔に戻って、
「いないよ」
なんて、言われたって。
途中まで送ってもらい、「ここからは方向が違うから」と離れて帰ろうとした。一緒にいたら、泣いてしまいそうだったから。
先輩はそんな私の様子を知ってか知らずか、
「そっか。また明日ね」
それだけ言うと、その場を去っていった。
そこからどうやって帰ったかは覚えていない。
帰宅し、小さく「ただいま」と家族に声を掛けると、まっすぐ部屋へと駆け込んだ。
そしてそのままベッドへと体を埋める。
あの目は、私を映していなかった。もっと、ずっと遠いところを見ていた。あんなに哀しそうな顔なんて、今まで見たことがない。
悲しい恋をしているのだろう。そして、それはきっと叶わない恋なのだろう――。
自分が悲しいのか、先輩のその想いが悲しいのか。それとも、両方なのだろうか。
枕に顔を押し付けると、ただただ、声を殺して泣いた。
『失恋』