川柳えむ

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6/2/2024, 7:37:03 AM

 雨が降っている。
 雲が絶えることなく大粒の涙を零し続ける。何日も何日も。
 それは、まるで私の心のように。
 雨に濡れながら、雲が零した涙を見ていた。
 生まれて消えていく雨粒は、まるで命のようで。この一瞬の為に生きているのかと悲しくなった。
 雨粒が弾ける。
 弾ける瞬間、雨音は歌った。優しく軽やかに、歌った。
 温かい雨は私の体を優しく包んで、涙と一緒に流れていった。

 -・- ・・・ ・--・ ・-・--

 私達は雨粒です。
 私達が辿り着く先の地面には、一人の女の人が立っていました。
 彼女は憂鬱そうに見えました。雨に濡れて、悲しそうな顔をしていました。
 雨粒は生まれ消え行くだけ。そしてそれは水となり、大地を潤し、生命を豊かにする。
 だけど、それが何だっていうのでしょうか。悲しむ今の彼女に何かしてあげられないでしょうか。
 どうか、せめて――。
 私達は歌いました。精一杯、歌いました。
 彼女は泣き出しました。

 -・- ・・・ ・--・ ・-・--

 長い長い雨は止み、雲が千切れ、空が覗き込みました。
 私達は消えたけれど、青空に七色を描いていきました。
 最期に見たのは、彼女の笑顔でした。


『梅雨』

5/31/2024, 10:57:55 PM

 何も知らない、あどけない顔で笑う君。純真無垢で、まだ世の中の汚さを何も知らない。真っ白な君。

「本当に貴女は何度言っても駄目なんだから!」
 子育てをしてそれだけでもヘトヘトな私に、アポ無し訪問の義母が、流しに置かれっ放しの、少し片付けが遅れただけの食器を見つけて、鬼の首を取ったかのように嬉々として怒鳴る。
 怒鳴る余裕があるなら、片付けを手伝ってほしい。
「全く駄目な嫁でちゅよね〜」
 生まれたばかりのまだ幼い我が子に擦り寄って、そんなことを吹き込む。
 余裕がなくて苛ついてしまう。やめてよ。

 我が子がこちらを向いた。
 そして、にこーっと笑った次の瞬間。
 ぶぅ、と大きな音を立てた。特大のオナラだった。
「くっさ!」
 義母が苦い顔をして後退った。
 キャッキャッと喜ぶ子。

 純真無垢? 何も知らない?
 ――本当に?
 でも、きっと私のことを思ってくれているのは間違いないから。
 大切な大切な宝物をぎゅうっと抱き締めた。


『無垢』

5/30/2024, 10:31:57 PM

「死にたい」

 僕がそう言うと、そいつは「死んだところで無駄だけどね」と言った。

「死んだところで、また新しい人生が始まるだけだよ。おまえの言う『死にたい』は『消えたい』だろ」

 死にたい。
 そしてそのまま魂ごと消えたい。

 そいつが言うには、魂はまた巡って新しい命になるという。

「輪廻転生? 信じてるの?」
「輪廻転生はあるよ」

 言い切る。
 まるでそれを真実だと知っているかのように。

「魂はまた生まれ変わる。旅は終わらない。死んだところでまた同じような人生が始まるだけ。死んだって、俺はおまえをまた必ず見つけ出す」

 だから、今の人生から逃げても無駄だと言うのか。
 死んだところで何も変わらない。どこにも逃げられない。

「そうかぁ……」

 僕は泣きながら笑った。


『終わりなき旅』

5/29/2024, 10:48:58 PM

 全く感情の籠もっていない謝罪の言葉が車内に響き渡る。

『お急ぎのところお客様には大変ご迷惑をお掛け致します』
『電車が遅れましたことをお詫び申し上げます』

 朝から遅延のアナウンス。最近はそれすらないことも増えているが。
 ほぼ毎日遅延する電車。時間が守れないならダイヤにもっと余裕を持たせればいいのに。

 イライラが治まらない。
「ごめん」で済んだら警察いらないって子供の頃言われなかった?
 また流れる無機質なアナウンスに心の中で舌打ちをする。
 揺れる満員電車。ぎゅうぎゅうに押し潰され、吐き気まで催してきた。
 気持ち悪い。

 きっと、最初からそういうもんだって。日本の電車も時間なんか守れないんだって。前後10分は見ておかないといけないんだって、自分で気を付ければいいんだけどね。
 あーもう。


『「ごめんね」』

5/28/2024, 11:29:48 PM

 文章投稿アプリに表示された『半袖』というお題に、もうさすがに七分袖から半袖にする時季なのかなぁと思ったので、今日から半袖にします。

『半袖』と君が言ったから今日は半袖記念日。


『半袖』

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