これは実体験なんですけど。
私は猫が好きです。
それで、その日は生まれて初めて猫カフェに行ってみたんです。
わくわくしながら猫カフェに入ると、そこにはたくさんの猫がいました。当たり前ですけど。
たくさんの猫がお出迎えしてくれて、はぁ〜もうここに住む〜ってくらい幸せだと思ったんですね。しばらく猫に触れ合っていませんでしたし。
しかし、その次の瞬間です。正確には、入って少ししたら徐々にって感じでしたが。
目が痒い。くしゃみが止まらない。
そうです。猫アレルギーです。
そういえば、猫アレルギーを持っていたことを忘れていました。実家には猫がいるんですが、たまにアレルギー症状が出るくらいで、そんなに酷くなかったんですよね。まぁ医者には今の猫がいなくなったらもう飼わないように言われましたが(でも飼ってる)。
実家とは違い、狭い空間にたくさんの猫。そりゃアレルギーが出ないわけありません。
猫に囲まれて最高に天国! からの猫アレルギーで地獄! 天国と地獄とは正にこのこと! そう思いましたね。
猫アレルギーの人、猫カフェに行くなら、死ぬ覚悟で行ってください。冗談じゃなくてね。お気を付けて。
『天国と地獄』
僕は夜しか生きられなかった。日の光は、僕の体を蝕む悪いものだった。
毎日みんな寝静まった頃に起き出して、空を見上げる。
そこには大体いつも、寂しそうな月がいた。
たくさんの星に囲まれていても、月は僕と同じような孤独を感じているように思えた。
だから、僕はお願いした。
月≪君≫に向かって。
「どうか。お友達になってください」
って。
『月に願いを』
「止まないね」
空を見上げながら呟く。
隣に座る君は静かに頷いた。
雨が降り続ける。ザーザーと、みんなの悲しみを代弁するかのように。
「困ったね。いつまで続くのかな」
止む気配はない。私達はここから動くこともできず、立ち止まっていた。
「いつまででもいいよ」
君が言う。
「いつまででもいいよ。君と一緒なら」
君がこちらを見て微笑んだ。
「……そうかもね」
世界に異常気象が発生していた。
まず雨が振り始めた。雨はだんだんと激しくなり、世界を水の底に沈めた。
それから暫くの時が経ったが、未だ雨が止むことはなかった。
標高の高い山の上に逃げた私達だったが、激しい雨に斜面は崩れ、危険な状態にあった。そろそろここも沈んでしまうだろう。
君の肩に寄り掛かる。君はそっと私の方を抱いた。温もりが心地良い。
止まない雨の音を聴きながら、静かに目を閉じた。
『降り止まない雨』
10年前の私から手紙が届いた。
タイムカプセルとかではない。本当に、10年前の私から手紙が届いたのだ。
ある企業がタイムマシンの開発をしていた。しかし、そのタイムマシンは完成しなかった。代わりに、手紙程度の物なら送受信できるようで、未来の自分と文通するサービスができた。それが10年前に流行っていた。いつの間にか廃れてしまったが。
サービスを購入したか覚えてはいないが、実際に届いたということは購入していたのだろう。詐欺でなければ。
手紙を開いてみる。
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10年後の私へ
今何をしていますか? こちらは毎日の勉強に追われています。せっかくバイト代で貯めたお金もこんなサービスに使ってしまいました(笑)
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そんなどうでもいいようなことがたくさん書かれていた。
さて、これになんと返事をしたものか。決して安くはないサービスだったはず。そう思うと気軽に返事もできず、数日間悩んでしまった。
早くしないと。返事を待ってるはずだ。とにかく筆を持って、書いてみる。
あの頃の私へ、何でもいい、伝えておきたいことを。
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10年前の私へ
お手紙ありがとう。
今の私は、小さな会社で事務をやっています。悪くはないです。でも、その頃の夢とは大きくかけ離れていて、虚しくなることもあります。
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気付けば、いろんなことを書いていた。たくさんの後悔やアドバイスを、まるで懺悔のように。
しばらくして、返事が届いた。
その中に、アドバイスを実践しているという報告があった。そのおかげか、この頃起きていたであろう後悔している問題も発生していないようだった。
嬉しくなり、返事をする。
そしてまた近況報告が届く。私はそれをわくわくしながら読んだ。
そうして、そんなやり取りが何度か続いた。
手紙の向こうの私は、徐々に状況が良くなっているようだった。夢ももうすぐ叶いそうだ。
それなのに、私の気持ちは逆に沈んでいった。
最初は純粋に嬉しかった。
でも、やり取りが進むにつれ、この人はこんなに順調なのに、なぜ私はこんな生活をしているのかと、疑問を持つようになっていった。
私のおかげなのに、この人だけ上手くいっている。この人の人生が上手くいっても、私の人生は何も変わらない。10年前が変わっているのに、何の変化もない毎日。そもそも、こんなに上手くいって、この人は本当に私なのか?
やり取りしていた相手が急に誰かわからなくなり、気持ち悪さすら感じる。
最後の手紙が届いた。
私はその手紙を読まずに破り捨てた。
視界が歪んだ気がした。
『あの頃の私へ』
好き過ぎて、もうどうしようもなかった。
この想いを捨てようと何度も思った。でも、無理だった。
あなたからは、この気持ちからは、逃れられない。
もう今更逃れようとも思わなくなったけど。
『逃れられない』