川柳えむ

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5/26/2024, 4:39:06 AM

「止まないね」
 空を見上げながら呟く。
 隣に座る君は静かに頷いた。
 雨が降り続ける。ザーザーと、みんなの悲しみを代弁するかのように。
「困ったね。いつまで続くのかな」
 止む気配はない。私達はここから動くこともできず、立ち止まっていた。
「いつまででもいいよ」
 君が言う。
「いつまででもいいよ。君と一緒なら」
 君がこちらを見て微笑んだ。
「……そうかもね」

 世界に異常気象が発生していた。
 まず雨が振り始めた。雨はだんだんと激しくなり、世界を水の底に沈めた。
 それから暫くの時が経ったが、未だ雨が止むことはなかった。
 標高の高い山の上に逃げた私達だったが、激しい雨に斜面は崩れ、危険な状態にあった。そろそろここも沈んでしまうだろう。

 君の肩に寄り掛かる。君はそっと私の方を抱いた。温もりが心地良い。
 止まない雨の音を聴きながら、静かに目を閉じた。


『降り止まない雨』

5/25/2024, 7:30:23 AM

 10年前の私から手紙が届いた。
 タイムカプセルとかではない。本当に、10年前の私から手紙が届いたのだ。
 ある企業がタイムマシンの開発をしていた。しかし、そのタイムマシンは完成しなかった。代わりに、手紙程度の物なら送受信できるようで、未来の自分と文通するサービスができた。それが10年前に流行っていた。いつの間にか廃れてしまったが。
 サービスを購入したか覚えてはいないが、実際に届いたということは購入していたのだろう。詐欺でなければ。

 手紙を開いてみる。

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 10年後の私へ
 今何をしていますか? こちらは毎日の勉強に追われています。せっかくバイト代で貯めたお金もこんなサービスに使ってしまいました(笑)
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 そんなどうでもいいようなことがたくさん書かれていた。
 さて、これになんと返事をしたものか。決して安くはないサービスだったはず。そう思うと気軽に返事もできず、数日間悩んでしまった。
 早くしないと。返事を待ってるはずだ。とにかく筆を持って、書いてみる。
 あの頃の私へ、何でもいい、伝えておきたいことを。

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 10年前の私へ
 お手紙ありがとう。
 今の私は、小さな会社で事務をやっています。悪くはないです。でも、その頃の夢とは大きくかけ離れていて、虚しくなることもあります。
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 気付けば、いろんなことを書いていた。たくさんの後悔やアドバイスを、まるで懺悔のように。

 しばらくして、返事が届いた。
 その中に、アドバイスを実践しているという報告があった。そのおかげか、この頃起きていたであろう後悔している問題も発生していないようだった。
 嬉しくなり、返事をする。
 そしてまた近況報告が届く。私はそれをわくわくしながら読んだ。

 そうして、そんなやり取りが何度か続いた。
 手紙の向こうの私は、徐々に状況が良くなっているようだった。夢ももうすぐ叶いそうだ。
 それなのに、私の気持ちは逆に沈んでいった。
 最初は純粋に嬉しかった。
 でも、やり取りが進むにつれ、この人はこんなに順調なのに、なぜ私はこんな生活をしているのかと、疑問を持つようになっていった。
 私のおかげなのに、この人だけ上手くいっている。この人の人生が上手くいっても、私の人生は何も変わらない。10年前が変わっているのに、何の変化もない毎日。そもそも、こんなに上手くいって、この人は本当に私なのか?
 やり取りしていた相手が急に誰かわからなくなり、気持ち悪さすら感じる。

 最後の手紙が届いた。
 私はその手紙を読まずに破り捨てた。
 視界が歪んだ気がした。


『あの頃の私へ』

5/23/2024, 10:11:48 PM

 好き過ぎて、もうどうしようもなかった。
 この想いを捨てようと何度も思った。でも、無理だった。
 あなたからは、この気持ちからは、逃れられない。
 もう今更逃れようとも思わなくなったけど。


『逃れられない』

5/22/2024, 10:40:02 PM

「さよなら三角また来て四角」
 ……という言葉遊びの歌を知っているかい?
 ここから「四角は豆腐 豆腐は白い」と続く。つまり、連想ゲームの歌なんだが。
 これ最初聴いた時、かわいそうな三角って思った。
 みんなも思ったよね? だって、四角には「また来て」って言ってるのに三角には「さよなら」だけだよ。明確にまた会おうって、会いたいって、四角に対しては思っているのに。三角、絶対に嫌われている(ワンチャン、逆に好き説もある)。
 もしかしたら、三角が何かをやらかしたのかもしれないが、こんな露骨なことを言うなんて。言ったのが丸かバツか五角形かは知らないが、もう少し相手のことを気遣えないものかね。
 心なんて簡単に傷付くものだから、もうちょっと相手のことを考えて発言しよう。傷付いて、三角が欠けてしまうかもしれないよ。

 ――単なる言葉遊びに何を言っているんだって?
 本当にね。
 疲れてるのかもしれない。もう寝よう。また明日。また来て読みに。……あ、朝ですか。出る時間ですか、ハイ。


『また明日』

5/21/2024, 11:40:11 PM

 許される筈のない恋をした。

「ごめんね」

 君はそう涙を流した。
 その涙は美しく透き通っていて。こんなに美しい人を泣かせて、謝るべきは僕の方なのに。

「ごめん」

 そう何度も謝らないでほしい。
 だんだんと惨めに感じてくる。
 最初から無理だと理解っていて告げたのだ。このドロドロの感情を抑え切れなくなって、半分持たせる為に、無理矢理押し付けたのだ。
 どこまでも美しく透明な君へ、この汚れた感情をぶつけたんだ。

 ごめん。

 そう。謝るべきは僕の方。
 だって、君の色が、少しでも僕の色に濁ってくれたならば、本当はもうそれだけでいいんだ。


『透明』

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