川柳えむ

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5/6/2024, 5:36:23 AM

 初めてこんな景色を見た。
 美しいと思った。
 君と出逢わなかったら、こんな景色を見ることも、こんな想いを抱くこともなかった。
 君と出逢ったのは偶然だった。本当に、道端で偶然出逢った。その時は、こんな風になるとは思っていなかった。
「ありがとう」
 君にそう告げると、君は嬉しそうに笑った。
 ありがとう、出逢ってくれて。
 ありがとう、僕を連れ出してくれて。

 君と出逢って、僕は助かった。君に助け出されたんだ。
 宇宙船から見下ろした先には、他の星から侵略されて滅び行く地球の姿があった。
 それは、悲しくなるくらい美しい姿だった。


『君と出逢って』

5/5/2024, 8:36:05 AM

 最初はいろいろな音に耳を澄ませていただけだった。
 風の音や木々のざわめく音、車の音や人々の活気のある声を聴いてきた。
 ただ純粋な気持ちで聴いていただけだった。

 いつからだったか、音に怯えるようになっていた。
 聴きたくないものまで聴こえてくる気がして。

 風の音に、空の悲しみが混ざっている気がして。
 木々のざわめきに、植物の痛みの怨嗟が混ざっている気がして。
 車の音に、大地の怒りが混ざっている気がして。
 人々の声に、乱れた感情や恨みや苦しみが混ざっている気がして。
 全ての音が、訴えかける声に聴こえて――。

 耳を澄ませば聴こえてくる。
 音が、声が、怖い。
 もう何も聴きたくない。

 そう思い、耳を塞いだ。
 他人の顔を見るのさえも怖くなった。
 その日もベッドの上にうつ伏せに寝転がって、枕に顔を埋めていた。

 その時。

 ~♪~♪~

 風に乗って、耳に届いてきた。
 リコーダーの音だった。
 決して上手いとは言えなかったものの、澄んだ綺麗な音だった。
 思わずベランダに飛び出し、身を乗り出した。
 見下ろした先では、一人の少女が必死にリコーダーを練習していた。
 流れてくる音。溢れる温かい思いが、リコーダーの音色には篭っていた。

 ああ、世界には、こんなに綺麗な音も存在しているんだ。

 当たり前のことだったけれど、そう思った。
 当たり前のはずなのに、耳を塞いたから、今まで気付けなかった優しい音。

 それから、音への恐怖はなくなった。
 世界にはたくさんの苦しみや悲しみが存在していて、聴こえてくる声は醜かったりもするけれど、温かい音も確かに存在しているから。


『耳を澄ますと』

5/4/2024, 12:31:52 AM

「二人だけの秘密だよ」
 山にあった古びた小屋を秘密基地にして、僕らは二人顔を見合わせた。
 周辺に大きな穴を掘ったり埋めたり。大きな仕事をして、ここは本格的に僕ら二人だけの秘密基地になった。
 なんだかドキドキする。
 秘密基地。どうか誰にも見つかりませんよーに。


『二人だけの秘密』

5/3/2024, 6:21:50 AM

 優しくしないで。
 戻れなくなったらどうしてくれるの。全てに責任取れるの?
 優しくされて、それを許して、あなたなしでは生きられなくなって、もしその後捨てられてしまったら。
 きっと私はもう生きていけない。

「大丈夫。おいで。幸せにするから」
 あなたがしゃがみ込んで手を差し伸べる。
「にゃーん」
 あなたの腕の中に飛び込む。
 きっと、もう戻れないだろうと思いながら。

 優しくしないで。
 優しくするなら、絶対に幸せにしてね。


『優しくしないで』

5/2/2024, 5:39:49 AM

 疲れていた。
 家に持ち帰った仕事をする為に、パソコンに向かい合っていた。
 どれだけそうしていたのかわからない。
 五月三日。世間はゴールデンウィーク。
 休みだというのに、なぜ私はこんなことをしているのだろうと、我に返る。
「何か甘いものが食べたいなぁ〜……」
 部屋を出て、ダイニングキッチンへとやって来た。
 何かおやつあったかなぁと、冷蔵庫を開けてみるが、目ぼしい物は見当たらない。
 ふと顔を上げると、戸棚のガラス扉の向こうにドロップ缶が見えた。
 そうだ。前回帰省した時に、祖母から貰ったんだった。
 缶を開けると、中から色とりどりのドロップが転がり出てきた。
 それを一つ口に頬張る。
「……甘〜い」
 カラフルで、宝石のようなドロップ。甘くて、綺麗で。
 子供の頃はこれが好きで、よく祖母に買ってもらっていた。ドロップ缶を渡してくれる祖母のいつもの笑顔を思い出す。
 次の休みには帰省しようと、強く心に決めた。


『カラフル』

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