初めてこんな景色を見た。
美しいと思った。
君と出逢わなかったら、こんな景色を見ることも、こんな想いを抱くこともなかった。
君と出逢ったのは偶然だった。本当に、道端で偶然出逢った。その時は、こんな風になるとは思っていなかった。
「ありがとう」
君にそう告げると、君は嬉しそうに笑った。
ありがとう、出逢ってくれて。
ありがとう、僕を連れ出してくれて。
君と出逢って、僕は助かった。君に助け出されたんだ。
宇宙船から見下ろした先には、他の星から侵略されて滅び行く地球の姿があった。
それは、悲しくなるくらい美しい姿だった。
『君と出逢って』
最初はいろいろな音に耳を澄ませていただけだった。
風の音や木々のざわめく音、車の音や人々の活気のある声を聴いてきた。
ただ純粋な気持ちで聴いていただけだった。
いつからだったか、音に怯えるようになっていた。
聴きたくないものまで聴こえてくる気がして。
風の音に、空の悲しみが混ざっている気がして。
木々のざわめきに、植物の痛みの怨嗟が混ざっている気がして。
車の音に、大地の怒りが混ざっている気がして。
人々の声に、乱れた感情や恨みや苦しみが混ざっている気がして。
全ての音が、訴えかける声に聴こえて――。
耳を澄ませば聴こえてくる。
音が、声が、怖い。
もう何も聴きたくない。
そう思い、耳を塞いだ。
他人の顔を見るのさえも怖くなった。
その日もベッドの上にうつ伏せに寝転がって、枕に顔を埋めていた。
その時。
~♪~♪~
風に乗って、耳に届いてきた。
リコーダーの音だった。
決して上手いとは言えなかったものの、澄んだ綺麗な音だった。
思わずベランダに飛び出し、身を乗り出した。
見下ろした先では、一人の少女が必死にリコーダーを練習していた。
流れてくる音。溢れる温かい思いが、リコーダーの音色には篭っていた。
ああ、世界には、こんなに綺麗な音も存在しているんだ。
当たり前のことだったけれど、そう思った。
当たり前のはずなのに、耳を塞いたから、今まで気付けなかった優しい音。
それから、音への恐怖はなくなった。
世界にはたくさんの苦しみや悲しみが存在していて、聴こえてくる声は醜かったりもするけれど、温かい音も確かに存在しているから。
『耳を澄ますと』
「二人だけの秘密だよ」
山にあった古びた小屋を秘密基地にして、僕らは二人顔を見合わせた。
周辺に大きな穴を掘ったり埋めたり。大きな仕事をして、ここは本格的に僕ら二人だけの秘密基地になった。
なんだかドキドキする。
秘密基地。どうか誰にも見つかりませんよーに。
『二人だけの秘密』
優しくしないで。
戻れなくなったらどうしてくれるの。全てに責任取れるの?
優しくされて、それを許して、あなたなしでは生きられなくなって、もしその後捨てられてしまったら。
きっと私はもう生きていけない。
「大丈夫。おいで。幸せにするから」
あなたがしゃがみ込んで手を差し伸べる。
「にゃーん」
あなたの腕の中に飛び込む。
きっと、もう戻れないだろうと思いながら。
優しくしないで。
優しくするなら、絶対に幸せにしてね。
『優しくしないで』
疲れていた。
家に持ち帰った仕事をする為に、パソコンに向かい合っていた。
どれだけそうしていたのかわからない。
五月三日。世間はゴールデンウィーク。
休みだというのに、なぜ私はこんなことをしているのだろうと、我に返る。
「何か甘いものが食べたいなぁ〜……」
部屋を出て、ダイニングキッチンへとやって来た。
何かおやつあったかなぁと、冷蔵庫を開けてみるが、目ぼしい物は見当たらない。
ふと顔を上げると、戸棚のガラス扉の向こうにドロップ缶が見えた。
そうだ。前回帰省した時に、祖母から貰ったんだった。
缶を開けると、中から色とりどりのドロップが転がり出てきた。
それを一つ口に頬張る。
「……甘〜い」
カラフルで、宝石のようなドロップ。甘くて、綺麗で。
子供の頃はこれが好きで、よく祖母に買ってもらっていた。ドロップ缶を渡してくれる祖母のいつもの笑顔を思い出す。
次の休みには帰省しようと、強く心に決めた。
『カラフル』