疲れていた。
家に持ち帰った仕事をする為に、パソコンに向かい合っていた。
どれだけそうしていたのかわからない。
五月三日。世間はゴールデンウィーク。
休みだというのに、なぜ私はこんなことをしているのだろうと、我に返る。
「何か甘いものが食べたいなぁ〜……」
部屋を出て、ダイニングキッチンへとやって来た。
何かおやつあったかなぁと、冷蔵庫を開けてみるが、目ぼしい物は見当たらない。
ふと顔を上げると、戸棚のガラス扉の向こうにドロップ缶が見えた。
そうだ。前回帰省した時に、祖母から貰ったんだった。
缶を開けると、中から色とりどりのドロップが転がり出てきた。
それを一つ口に頬張る。
「……甘〜い」
カラフルで、宝石のようなドロップ。甘くて、綺麗で。
子供の頃はこれが好きで、よく祖母に買ってもらっていた。ドロップ缶を渡してくれる祖母のいつもの笑顔を思い出す。
次の休みには帰省しようと、強く心に決めた。
『カラフル』
この世に楽園? あるわけない。
楽園なんてどこにも存在しない。
世界には苦しみしかない。
嘘だ。
あったわ。楽園はここにあった。
猫カフェでたくさんの猫に埋もれながら、とても締まりの無い表情で、この世の真理に気付いてしまった。
楽園は、ある。
『楽園』
風が吹いている。
あまりの心地良さに思わず風に歌声を乗せた。この広い草原で、思い切り歌う。世界がまるで自分のものになったような気分だった。
「ママー。なんで風が吹けば桶屋が儲かるの?」
「それはね。風に乗ったパパみたいな歌声がみんなの耳を駄目にして、みんな三味線を弾くことも聴くこともなくなって、三味線に使われる猫は余ってしまって、そのたくさんの猫が桶で丸まって眠るから、桶屋が儲かるのよ」
「そうなんだ!」
「ママ、嘘教えないで」
『風に乗って』
君がこちらを振り返っただけだった。
刹那、恋に落ちた。
振り返ったその瞳が美しかった。光を纏っているような煌めきを持っていた。それを見た瞬間、恋ってこんなに簡単に落ちるものなんだと知った。
時間なんて要らない。
それは、極めて瞬間的に起きた出来事だった。
『刹那』
君が思うほど、周りは君を見ていないからね。
たとえば、君がどこかへ突然消えてしまったとしても、多分他の人は気付かないよ。
もし、それを「寂しい」と思うならば、それがきっと本心さ。
まだそこに居ればいい。大丈夫。それすら誰も気にしない。そのままで構わない。
それでもし、それすらなんとも思わなくなったのなら、とりあえずその場から離れてみようか。
世界は広いって知ってるかい? 見えているものが全てじゃないんだ。ひとまず、行ったことのない場所に行ってみよう。
どうせ気付かれないんだから、好きなようにやってやればいいのさ。
大体、君は自意識過剰だ。
本当に何もかもがどうでもいいのならば、それこそ周りの意見なんて聞かずに、どこかへ行けばいい。
いつか、君が誰からも何も聞く気がなくなって、思うこともやることもなくなってしまったのなら、その時こそは、その先を考えてもいいのかもしれないね。
でも、その時はそれすらどうでもよくなってしまっているよ、きっと。
せめてそれまでは、せいぜい自由に生きなさい。
生きる意味なんて考えているうちは、まだ生きたいってことなんだから。
『生きる意味』