あと少しで届きそうなのに。
どんなに手を伸ばしても届かない。
どうしても欲しいんだ。この想い、抑え切れない。
だからこちらもいろいろな手を使って手に入れようとする。
あと少し。あと少し。
「こらぁ〜〜〜〜! 何やっとるか〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「やべっ! 見つかった!」
あと少しで雷親父の家の柿に手が届きそうなのになぁ。
次こそとってやるぞ!
※良い子は真似しないでね。
『届かぬ想い』
たくさんの人達に笑顔を与える。それが僕の仕事。
そう思いながら頑張ってきた。そして、実際それができているとも思う。
この人に出逢うまでは――。
隣に眠る最愛の人の横顔を撫でる。
幸せそうな顔をして、一体どんな夢を見ているんだろう?
たくさんの人に笑顔を与えてきた。でも、今は誰よりも笑顔にしたいたった一人がいる。
彼女との関係が世の中に知られてしまった。
たくさんの人に悲しい顔をさせたことも知っている。そして、彼女にも。
でも、僕は諦めない。
あの日――初めて出逢った日。
僕は定食屋で働く半人前のバイトで、彼女はお客さんだった。
彼女はとても疲れ切った顔をしていた。思わずお節介を焼いてしまうくらいには。
サービスでつけたデザートを、彼女はそれは美味しそうに食べてくれた。
そして、気付けば僕は惚れていたようで、その日から彼女のことが忘れられなかった。一目惚れをしていたんだ。
でも、それから本業のアイドルが忙しくなり、バイトは辞めざるを得なくなってしまった。
あの日以来、彼女には出会えていない。ここのバイトを辞めてしまったら、更に会える確率は減ってしまう。でも、仕方がなかった。
もしかしたら、彼女は、僕の前に舞い降りた下界に遊びに来た女神様だったのかも。そんなことを考えてしまうくらいには、美しい人だった。もう天界に帰ってしまったのだろうか。
もう一度会いたい。どうか、もう一度。
神様へ――
神様。本当にこの世に神様がいるなら、どうか、もう一度彼女に会わせてください。
もう一度この世界へ、どうか。
そうしたら、絶対、彼女にこの想いを伝えるのに。
夢かと思った。
ライブ中、観客席に彼女の姿を見つけた。一際輝いていた。
――あぁ、神様、ありがとうございます。
再び僕の元へ彼女を遣わせてくれて。チャンスを与えてくれて。
こうして、僕は無事に想いを伝え、結ばれることができたんだ。まさか、その時は彼女が人気の女優さんだなんて全然気付いてなかったけれど。
でも、そんなことは関係ない。絶対に離したくない、大切な人。
たくさんの人を笑顔にしたいと思うのは変わらないけど、僕は神様なんかじゃない。そして、それは君もそうだった。
だから、誰一人傷付けずに生きていくなんてできない。僕達は僕達でできる精一杯で頑張っているんだ。
僕に一番笑顔にしたい人がいたって、君も同じく僕を一番に想っていたって、僕達は変わらずみんなにも笑っていてほしいから、一生懸命にできることをするよ。これからも、ずっとそうだ。
仕事へ向かう支度を始める。カーテンを開き、更に気合を入れた。
『神様へ』
雲一つない晴れ渡った青空を見上げる。
あー綺麗だなー。清々しい。
何も悩みなんてない。こんな天気みたいに晴れ渡った心。
気分晴れやか爽快快晴! 人生楽しい!
……って言ってみたいなぁー!
『快晴』
元々飛ぶのが下手だった。上手く羽ばたけなくて、みんなの笑い者だった。
ただでさえそんな状態だったのに、翼に怪我をした。飛ぶのは絶望的になった。
季節が変わり、仲間達は遠くの空へと旅立っていく。
みんなの後ろ姿を見送る。僕は飛び立つこともできず、ただ死を待つのみだった。涙で世界が滲む。
みんなが向かう先の遠い遠い空を思い浮かべながら、瞼を閉じた。
温かい場所にいた。
ここが想像した遠くの空なのか。その更に向こうなのか。それとも、そうか、あの世なのか。
目をゆっくり開けると、狭い狭い場所にいた。僕は人間に拾われたようだった。
人間は僕に不自由ない生活をさせてくれた。とても優しく触れてくれた。
今も時折思い浮かべる。遠くの空を。
でも、ここには羽ばたける広い空はないけれど、この狭い空間が今の僕の世界で、僕の幸せになった。僕にとっての楽園だ。
『遠くの空へ』
友達ができた。
私は口下手で、上手く喋れない。台本を用意して、ようやく喋れるくらい。
そんな私だけど、友達ができた。その子は友達がたくさんいた。正直、別の世界の人だと思っていた。
でも、その子もいろんな悩みを抱えてるんだって偶然知った。当然だ。悩みを抱えていない人なんていなかったんだ。
そして、私達は友達になった。まだ上手く話すことはできないけど。
でも、これだけは言っておきたい。言葉にするのは苦手だけど、伝えたい。
友達に。友達になってくれて、
「ありがとう」
『言葉にできない』