川柳えむ

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 元々飛ぶのが下手だった。上手く羽ばたけなくて、みんなの笑い者だった。
 ただでさえそんな状態だったのに、翼に怪我をした。飛ぶのは絶望的になった。

 季節が変わり、仲間達は遠くの空へと旅立っていく。
 みんなの後ろ姿を見送る。僕は飛び立つこともできず、ただ死を待つのみだった。涙で世界が滲む。
 みんなが向かう先の遠い遠い空を思い浮かべながら、瞼を閉じた。

 温かい場所にいた。
 ここが想像した遠くの空なのか。その更に向こうなのか。それとも、そうか、あの世なのか。
 目をゆっくり開けると、狭い狭い場所にいた。僕は人間に拾われたようだった。
 人間は僕に不自由ない生活をさせてくれた。とても優しく触れてくれた。

 今も時折思い浮かべる。遠くの空を。
 でも、ここには羽ばたける広い空はないけれど、この狭い空間が今の僕の世界で、僕の幸せになった。僕にとっての楽園だ。


『遠くの空へ』

4/12/2024, 10:57:15 PM