たくさんの人達に笑顔を与える。それが僕の仕事。
そう思いながら頑張ってきた。そして、実際それができているとも思う。
この人に出逢うまでは――。
隣に眠る最愛の人の横顔を撫でる。
幸せそうな顔をして、一体どんな夢を見ているんだろう?
たくさんの人に笑顔を与えてきた。でも、今は誰よりも笑顔にしたいたった一人がいる。
彼女との関係が世の中に知られてしまった。
たくさんの人に悲しい顔をさせたことも知っている。そして、彼女にも。
でも、僕は諦めない。
あの日――初めて出逢った日。
僕は定食屋で働く半人前のバイトで、彼女はお客さんだった。
彼女はとても疲れ切った顔をしていた。思わずお節介を焼いてしまうくらいには。
サービスでつけたデザートを、彼女はそれは美味しそうに食べてくれた。
そして、気付けば僕は惚れていたようで、その日から彼女のことが忘れられなかった。一目惚れをしていたんだ。
でも、それから本業のアイドルが忙しくなり、バイトは辞めざるを得なくなってしまった。
あの日以来、彼女には出会えていない。ここのバイトを辞めてしまったら、更に会える確率は減ってしまう。でも、仕方がなかった。
もしかしたら、彼女は、僕の前に舞い降りた下界に遊びに来た女神様だったのかも。そんなことを考えてしまうくらいには、美しい人だった。もう天界に帰ってしまったのだろうか。
もう一度会いたい。どうか、もう一度。
神様へ――
神様。本当にこの世に神様がいるなら、どうか、もう一度彼女に会わせてください。
もう一度この世界へ、どうか。
そうしたら、絶対、彼女にこの想いを伝えるのに。
夢かと思った。
ライブ中、観客席に彼女の姿を見つけた。一際輝いていた。
――あぁ、神様、ありがとうございます。
再び僕の元へ彼女を遣わせてくれて。チャンスを与えてくれて。
こうして、僕は無事に想いを伝え、結ばれることができたんだ。まさか、その時は彼女が人気の女優さんだなんて全然気付いてなかったけれど。
でも、そんなことは関係ない。絶対に離したくない、大切な人。
たくさんの人を笑顔にしたいと思うのは変わらないけど、僕は神様なんかじゃない。そして、それは君もそうだった。
だから、誰一人傷付けずに生きていくなんてできない。僕達は僕達でできる精一杯で頑張っているんだ。
僕に一番笑顔にしたい人がいたって、君も同じく僕を一番に想っていたって、僕達は変わらずみんなにも笑っていてほしいから、一生懸命にできることをするよ。これからも、ずっとそうだ。
仕事へ向かう支度を始める。カーテンを開き、更に気合を入れた。
『神様へ』
4/14/2024, 8:47:59 PM