川柳えむ

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2/18/2024, 10:40:35 PM

「『今日にさよなら』……ねぇ……」

 一日一つ何かしらのお題が出て、それに沿った文章を投稿するアプリをやっているわけだが。今日のお題が私的にはなかなか難しく『今日にさよなら』というものだった。
 こういう時はまずどうするか決まっている。メニューからみんなの作品を見てみるのだ。みんなはどんな内容を投稿しているのか。勿論パクるわけではない。参考にするのだ。実際刺激されて良い物が書けたりするのだ。
 みんなの作品を開いてみる。
 ――なるほど、こんな感じか。へぇ、こんな視点もあるんだなぁ。あ、これ面白い。
 手が止まる。これ好きだ。
『いいね』の代わりの『もっと読みたい』ボタンをタップしようとする。その前にお気に入りに登録する必要があるのだが、案の定、既にお気に入りに入っていた。
 しかし、悔しい。面白い。このオチが好きだ。よくあることだ――みんなの作品を読んで悔しくなるのは。実際に、そんなことを以前、少し前に黒いアイコンに変わってしまったSNSでも呟いたことがある。
 はぁ……悔しいな。こんなお題、早く変わってしまえ。でも絶対何かしらは書くと決めている。だから。
 こんな気持ちを込めて投稿する。
 これで、今日のお題よ、さようなら!


『今日にさよなら』

2/18/2024, 5:38:02 AM

 絶対に誰にも見せたくない。渡したくない。僕だけのお気に入りのものがあった。
 だから宝箱にしまっておくことにした。
 宝箱の中にしまって、僕だけが見られるように。僕だけが触れるように。
 お気に入りのそれは、とても美しかった。僕だけのものだと思ったら、余計に愛おしく、大切だと思えた。

『――○○日午後、××県△△市にあるアパートの一室で、女性の遺体が発見されました。警察は、部屋の契約者である男を死体遺棄容疑で逮捕しました。男は「お気に入りだからしまっておきたかった」などと供述し、容疑を認めています』


『お気に入り』

2/16/2024, 10:31:56 PM

 他の誰よりも私があなたを好き。他の誰よりもあなたのことが好きだよ。
 あなたも私のこと好きだよね?

 あなたのステージは全部観に行ったし、あなたもこっちに向かって手を振ってくれた。最初に目が合った時は勘違いかと思ったけど、笑いかけてくれたよね? いろんなプレゼントも贈った。使ってくれてる? 飾ってくれてるかな。
 お互いに想い合ってあるのに、二人きりで逢えないなんて。
 そろそろ一歩前に進みたいよね。あなたもそうでしょ?
 あなたの家に行きたいのに、嫉妬かな? いつもスタッフさんに邪魔されてたから。仕方ないからあなたの住所を買ったよ。これで二人で逢えるね。

 他の誰よりも私があなたを好き。他の誰よりもあなたのことが好きだよ。
 私達、相思相愛ね。


『誰よりも』

2/15/2024, 10:40:21 PM

 10年後の自分と文通ができるサービスをどこかの民間企業が始めた。
 その企業がタイムマシンの開発を始めたことは数年前に話題になっていたが、結局実現はしなかったようだ。
 代わりに、手紙程度の物なら、送ったりすることができるようにはなったということか。

 せっかくだから試してみることにした。
 10年後の自分に届けるのは今でもさほど難しくない。自分に手紙を書いて10年間保管しておけばいいだけだから。しかし、10年後の自分から届くというのは未知の体験だ。
 料金表を見ると、1回の金額もそこそこしたが、どうせならと1年間のパックを頼むことにした。1回分安くなる料金設定だった。

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 10年後の私へ
 今何をしていますか? こちらは毎日の勉強に追われています。せっかくバイト代で貯めたお金もこんなサービスに使ってしまいました(笑)
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 そういったような他愛のないことを手紙に認め、送った。
 向こうに手紙を送り届け、返事がこちらに届くまでは、早くても1週間はかかるそうだ。
 わくわくしながら返事を待った。
 そして1週間と半分ほど経った頃、返事が届いた。
 そこには、未来で就いている仕事やいろんなことへの後悔、そして今の私へのアドバイスが書かれていた。
 私はそのアドバイスに従って、より良い未来を迎えられるよう努力をすることを決めた。

 あれからちゃんと毎月手紙をやり取りしている。
 アドバイスのおかげでたくさん助かったことがある。私の未来はずっと良いものになりそうだと、感謝を込めてお礼を書いた。
 このサービスができて良かった。出費は痛かったけど、おかげでこんなに充実している。充実した未来になる。

 毎月毎月手紙を交換して、最後の手紙だ。
 私は将来の展望と、今まで以上のお礼を書いた。書き切れないほどの感謝を。

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 ありがとう。さようなら。
 また未来で会いましょう。
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 しかし、その返事はいつまで経っても届かなかった。


『10年後の私から届いた手紙』

2/14/2024, 2:11:43 PM

 チョコレートが欲しい!

 少年は切実にそう願っていた。
 世は大バレタイン時代。そう今日はバレンタイン。
 最近付き合い始めた彼女からのチョコレートが欲しい。絶対に欲しい。
 貰えなかったらどうしよう。いやそんなわけない。彼女なら絶対にくれる。間違いない。くれないはずがない。
 そうは思うものの、ドキドキそわそわする。

 そんな感じで浮つきながら登校した。
 教室に入り、席に着く。彼女はまだ来ていない。

 朝のチャイムが鳴り、HRが始まる。
 彼女はまだ来ていない……。

 え? いない? 来ない?
 まさか休み? 何かあった?

 慌てて彼女にLINEをしようとして思わず手が止まる。

 そんなわけない。そんなことあるわけないけど……もし、もし彼女が自分のことを嫌いになったんだとしたら? 会いたくなくて、学校に来てないんだとしたら?
 ……いや、それよりも。普通に考えたら体調不良の可能性の方が高いだろーが!

 そう思い直し、「なぜいないのか」「休みなのか」、急いで担任に確認した。


 彼女は頭を抱えていた。

 どうして……昨日までは元気だったのに。
 学校から帰ってきて、彼にあげる為のチョコを初めて手作りして、想いを詰め込んでラッピングをして……あとは今日渡すだけだったのに。
 なんで、急に熱を出したの。風邪を引いちゃったの。
 たしかに心当たりはあって、少し前に弟が風邪を引いて寝込んでたし(すぐに治ってたけど)、あと寒暖差に弱いから最近のこの気温はなかなか厳しかった。
 一応インフルエンザやコロナではなかったけれど(まだ陽性が出てないだけかもしれないけど)、それにしても、よりにもよってどうして今日。

「どうしようかな、あのチョコ……」

 机の上に置かれたままのチョコをベッドの中から眺める。
 もしかしたら、風邪の菌が入ってしまっているんじゃないかと思うと、風邪が治った後も気軽に渡すことなんてできない。

 せっかく作ったのにな……。
 でもしょうがない。彼に変なものを食べさせることになるくらいなら、ちゃんと作り直そう。

 そう決意して眠りに就いた。


 どれくらい眠っていたのだろうか。
 ゆっくりと目を開ける。

「おはよう」

 ――夢?
 彼の優しい顔がそこにあった。

「夢じゃないぞ」

 彼が彼女のほっぺたをそっと抓る。

「……あんまり痛くない……」

「そりゃ軽くしか抓ってないからなぁ」

「って、そうじゃないよ! なんでいるの!?」

 急に頭が覚醒する。
 なぜここに彼がいるのか。

「学校サボって来た」

「サボっちゃダメだよ!」

「勉強より大切なものがあるから仕方ない」

『大切なもの』――そう言われると嬉しくなってしまう。学校をサボってしまうのは良くないけど。
 自分の為にサボってくれた。自分がサボらせてしまった。
 そんな嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが混ぜこぜになる。

「んで、家に来たらおばちゃんが丁度仕事行くところだったから、代わりに俺が看病するって伝えて家に入れてもらったんだ」

「いや、学校行くように言ってよお母さーん!」

「俺が来たの、迷惑だったか……?」

 彼が悲しそうな顔して彼女を見つめてくる。そんな目で見ないでほしい。

「迷惑じゃない……」

「良かった。はいこれ」

「え?」

 彼に温かいマグカップを差し出された。
 受け取ると、中には――

「……ホットチョコレート?」

「……バレンタインだし……海外だとバレンタインって男から渡すって聞いたことあるぞ。それと、チョコは風邪に良いってのもなんか聞いたことあるし」

 海外ではチョコを渡すイベントじゃないけどね。
 それと、チョコが本当に風邪に良いかどうかは、一概には言えないみたいだけど。
 そう思っても、そんな野暮なことは言わない。

「嬉しい……ありがとう」

 だって、素直に嬉しかった。
 心配してすぐに自分のところに駆けつけてくれたことも。こうやって暖かいものを差し出してくれることも。自分の為を思って何かをしてくれるそのことが。
 マグカップを両手で包む。……温かい。心も暖かくなったバレンタイン。

「それで、その…………。……俺に、何か、その……」

 ――チョコレート、用意してない?

 そう聞こうとして彼は気付いた。
 彼女はこんな体調なんだ。そんな余裕なんてなかったかもしれない。
 いや、正直、机の上にあるラッピングされた箱がめちゃくちゃ気になるけど。
 でも、それは全然自分とは関係ないもので、やっぱり自分の分なんてないかもしれない。
 なかったとしても、きっとわざとじゃないだろうけど。
 などと、そんなたくさんのことをぐるぐると考え始めてしまった。

「……あ、チョコ……」

 彼女はベッドから起き上がろうとして、彼に止められた。

「寝てろ」

「ごめん……。その、机の上の箱……」

 やっぱり自分のだった!
 彼が内心で小躍りする。

「……でも、食べない方がいいかも」

 彼女の言葉に、彼は固まった。

「なんで!?」

 申し訳なさそうな表情を浮かべて、彼を見る。

「だって風邪引いちゃったし、風邪が感染っちゃうかも――」

 彼女の言葉を遮って、そっと唇に柔らかいものが触れた。

「――唇にチョコついてた。……大丈夫。これで風邪が感染っても、まぁ今更ってことで」

 それが何だったのか理解した瞬間、二人とも一気に熱が上がってしまった。
 暖かいを通り越して、熱いバレンタインになったのだった。


『バレンタイン』

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