川柳えむ

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 10年後の自分と文通ができるサービスをどこかの民間企業が始めた。
 その企業がタイムマシンの開発を始めたことは数年前に話題になっていたが、結局実現はしなかったようだ。
 代わりに、手紙程度の物なら、送ったりすることができるようにはなったということか。

 せっかくだから試してみることにした。
 10年後の自分に届けるのは今でもさほど難しくない。自分に手紙を書いて10年間保管しておけばいいだけだから。しかし、10年後の自分から届くというのは未知の体験だ。
 料金表を見ると、1回の金額もそこそこしたが、どうせならと1年間のパックを頼むことにした。1回分安くなる料金設定だった。

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 10年後の私へ
 今何をしていますか? こちらは毎日の勉強に追われています。せっかくバイト代で貯めたお金もこんなサービスに使ってしまいました(笑)
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 そういったような他愛のないことを手紙に認め、送った。
 向こうに手紙を送り届け、返事がこちらに届くまでは、早くても1週間はかかるそうだ。
 わくわくしながら返事を待った。
 そして1週間と半分ほど経った頃、返事が届いた。
 そこには、未来で就いている仕事やいろんなことへの後悔、そして今の私へのアドバイスが書かれていた。
 私はそのアドバイスに従って、より良い未来を迎えられるよう努力をすることを決めた。

 あれからちゃんと毎月手紙をやり取りしている。
 アドバイスのおかげでたくさん助かったことがある。私の未来はずっと良いものになりそうだと、感謝を込めてお礼を書いた。
 このサービスができて良かった。出費は痛かったけど、おかげでこんなに充実している。充実した未来になる。

 毎月毎月手紙を交換して、最後の手紙だ。
 私は将来の展望と、今まで以上のお礼を書いた。書き切れないほどの感謝を。

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 ありがとう。さようなら。
 また未来で会いましょう。
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 しかし、その返事はいつまで経っても届かなかった。


『10年後の私から届いた手紙』

2/15/2024, 10:40:21 PM