どこにも書けないことはどこにも書けないことだからどこにも書けないよ。
『どこにも書けないこと』
俺には時間を止める能力がある。
まだ長い時間を止めることはできないが、たぶん数秒は止めることができる。
なぜわかったのかというと、何気なく時計を見た時のこと。その瞬間だけなぜか、針が、本来は一秒一秒動くそれが、しばらく動かなかったのだ。その時は気のせいかと思ったが、それ以降も、時計を見てみれば必ず針がしばらく止まっていることに気付いた。つまり時間が止まるのだ。
この能力をどうしよう。練習して、もっと長い時間止められるようにしよう。でも、なかなか上手くいかない。もっと止められるようになったら、みんなに自慢しよう。それまでは俺だけの秘密だ。
でも、とうとう我慢できなくなって、母ちゃんに言ってしまった。
母ちゃんは言った。
「それはクロノスタシスだね」
クロノスタシス!
それがこの能力の名前なのか。もしかして、これは我が家に代々伝わる能力なのだろうか。
母ちゃん、俺、頑張ってこの力を使いこなせるようになるよ。
『時計の針』
一滴、一滴。
「うざい」
「きも」
ぽたり、ぽたり、と。
「悩みなさそうでいいね」
「そんなんじゃやってけないぞ」
少しずつ少しずつ、グラスの縁すれすれまで。
「○○って本当に馬鹿だな」
「おい、この××××××」
ストレスという名の雫を溜めながら、気持ちを抑えて。
「△△△△」
「○○、××××――」
表面張力で、溢れるギリギリまで笑っている。
「――」
決壊まで、あと――
『溢れる気持ち』
「大好き」
そう言いながら君に無理矢理キスをする。
君は嫌そうに首を反らせる。
嫌がっているのは重々承知している。
でも、気持ちを抑え切れないんだ。
大好きだ。愛してる。
うちの猫かわいー!!
『Kiss』
1000年先も、いや、それよりももっと先も、ずっと一緒にいたい。
いくらそう願っても、いつか寿命は訪れる。
ましてや、君と私では種族すら違っていた。
君は人間。どんなに長くても100年もすればいなくなる存在。
私はそれよりもずっと長寿の種族で、同じ時を生きることはできない。
……できなかったのに、同じ時を生きたいと願ってしまった。
「また会いに来るから」
目を閉じたまま、とても優しい声色で、ゆっくりと君はそう言った。
「あぁ。待っている」
君の手を包み込むように握る。涙を悟られないように、震える声を抑えて、そう答えた。
そしてそのまま、君は静かに眠りに就いた。
――君ならきっと約束を守ってくれる。
そう確信はしていた。
なぜなら、君は覚えていないだろうが、君がこの生を受ける前も、私は君に出逢っていたから。
君の前世とは最悪の出逢いだった。
その時の私達は敵対していた。お互いを憎まなければいけない立場で、本当に憎んでいたのかと言われるときっと違ったのだろうけど、そうしなければならなかった。
そして私は君を殺した。直接手を下したわけではないが、私が殺したようなものだった。
生まれ変わった君と再び出逢った。
私は君に罪悪感を抱いていて、君の目を見ることができなかった。
それなのに。何も知らないはずの君は、まるで全てを見透かすような瞳でまっすぐ私を見つめ、そして笑った。
きっと君と再会できたのは運命だったのだろうと、そう思う。
――いや、運命じゃなくてもいい。
また生まれ変わった君に、必ず会いに行くから。君が会いに来る前に、私が見つけに行くよ。
1000年先、いや、ずっとその先の未来も、君と共に生きる為に。何度も何度も君に会いに行く。
『1000年先も』