川柳えむ

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2/6/2024, 10:35:29 PM

 俺には時間を止める能力がある。
 まだ長い時間を止めることはできないが、たぶん数秒は止めることができる。
 なぜわかったのかというと、何気なく時計を見た時のこと。その瞬間だけなぜか、針が、本来は一秒一秒動くそれが、しばらく動かなかったのだ。その時は気のせいかと思ったが、それ以降も、時計を見てみれば必ず針がしばらく止まっていることに気付いた。つまり時間が止まるのだ。
 この能力をどうしよう。練習して、もっと長い時間止められるようにしよう。でも、なかなか上手くいかない。もっと止められるようになったら、みんなに自慢しよう。それまでは俺だけの秘密だ。
 でも、とうとう我慢できなくなって、母ちゃんに言ってしまった。
 母ちゃんは言った。
「それはクロノスタシスだね」
 クロノスタシス!
 それがこの能力の名前なのか。もしかして、これは我が家に代々伝わる能力なのだろうか。
 母ちゃん、俺、頑張ってこの力を使いこなせるようになるよ。


『時計の針』

2/6/2024, 1:33:48 AM

 一滴、一滴。

「うざい」
「きも」

 ぽたり、ぽたり、と。

「悩みなさそうでいいね」
「そんなんじゃやってけないぞ」

 少しずつ少しずつ、グラスの縁すれすれまで。

「○○って本当に馬鹿だな」
「おい、この××××××」

 ストレスという名の雫を溜めながら、気持ちを抑えて。

「△△△△」
「○○、××××――」

 表面張力で、溢れるギリギリまで笑っている。

「――」

 決壊まで、あと――


『溢れる気持ち』

2/4/2024, 4:44:10 PM

「大好き」

 そう言いながら君に無理矢理キスをする。
 君は嫌そうに首を反らせる。

 嫌がっているのは重々承知している。
 でも、気持ちを抑え切れないんだ。
 大好きだ。愛してる。

 うちの猫かわいー!!


『Kiss』

2/4/2024, 5:04:03 AM

 1000年先も、いや、それよりももっと先も、ずっと一緒にいたい。

 いくらそう願っても、いつか寿命は訪れる。
 ましてや、君と私では種族すら違っていた。
 君は人間。どんなに長くても100年もすればいなくなる存在。
 私はそれよりもずっと長寿の種族で、同じ時を生きることはできない。
 ……できなかったのに、同じ時を生きたいと願ってしまった。

「また会いに来るから」

 目を閉じたまま、とても優しい声色で、ゆっくりと君はそう言った。

「あぁ。待っている」

 君の手を包み込むように握る。涙を悟られないように、震える声を抑えて、そう答えた。
 そしてそのまま、君は静かに眠りに就いた。

 ――君ならきっと約束を守ってくれる。
 そう確信はしていた。
 なぜなら、君は覚えていないだろうが、君がこの生を受ける前も、私は君に出逢っていたから。

 君の前世とは最悪の出逢いだった。
 その時の私達は敵対していた。お互いを憎まなければいけない立場で、本当に憎んでいたのかと言われるときっと違ったのだろうけど、そうしなければならなかった。
 そして私は君を殺した。直接手を下したわけではないが、私が殺したようなものだった。

 生まれ変わった君と再び出逢った。
 私は君に罪悪感を抱いていて、君の目を見ることができなかった。
 それなのに。何も知らないはずの君は、まるで全てを見透かすような瞳でまっすぐ私を見つめ、そして笑った。

 きっと君と再会できたのは運命だったのだろうと、そう思う。
 ――いや、運命じゃなくてもいい。
 また生まれ変わった君に、必ず会いに行くから。君が会いに来る前に、私が見つけに行くよ。

 1000年先、いや、ずっとその先の未来も、君と共に生きる為に。何度も何度も君に会いに行く。


『1000年先も』

2/2/2024, 10:39:40 PM

「もうすぐ卒業だなぁ」

 高校三年の三学期。なんとか受験も終わり、久しぶりに登校した登校日。彼と二人きりの、放課後の教室。
 いろんな想いが籠もっているのか、それとも何も感じていないのか。彼がぽつりとそう呟いた。

「そうだね……」

 私はバッグから小さな花束を渡した。

「あげるよ」

 青い小さな花。
 私の好きな花。

「おー。さすが園芸部。ありがとう」

 嬉しそうに受け取ってくれた。

「これ、知ってる。あれだろ、よく外で見る……オオイヌノフグリ!」

 全然違い過ぎて笑った。
 オオイヌノフグリって、たしかに青くて小さなかわいらしい花だけど。それに対して名前が酷過ぎる花だけど(犬のピ――)。

「違うよ。勿忘草」

「あ、聞いたことある。『私を忘れないで』って花言葉のやつだ。へーこれが」

 彼は笑いながら私の頭にぽんと手を置いた。

「安心しろよ。ぜってー忘れねえって」

 その言葉に、私も笑顔になった。

 ……でもね。
 勿忘草の花言葉は確かに『私を忘れないで』だけど、青い勿忘草の花言葉は『真実の愛』や『誠の愛』なんだよ。


『勿忘草(わすれなぐさ)』

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