「大好き」
そう言いながら君に無理矢理キスをする。
君は嫌そうに首を反らせる。
嫌がっているのは重々承知している。
でも、気持ちを抑え切れないんだ。
大好きだ。愛してる。
うちの猫かわいー!!
『Kiss』
1000年先も、いや、それよりももっと先も、ずっと一緒にいたい。
いくらそう願っても、いつか寿命は訪れる。
ましてや、君と私では種族すら違っていた。
君は人間。どんなに長くても100年もすればいなくなる存在。
私はそれよりもずっと長寿の種族で、同じ時を生きることはできない。
……できなかったのに、同じ時を生きたいと願ってしまった。
「また会いに来るから」
目を閉じたまま、とても優しい声色で、ゆっくりと君はそう言った。
「あぁ。待っている」
君の手を包み込むように握る。涙を悟られないように、震える声を抑えて、そう答えた。
そしてそのまま、君は静かに眠りに就いた。
――君ならきっと約束を守ってくれる。
そう確信はしていた。
なぜなら、君は覚えていないだろうが、君がこの生を受ける前も、私は君に出逢っていたから。
君の前世とは最悪の出逢いだった。
その時の私達は敵対していた。お互いを憎まなければいけない立場で、本当に憎んでいたのかと言われるときっと違ったのだろうけど、そうしなければならなかった。
そして私は君を殺した。直接手を下したわけではないが、私が殺したようなものだった。
生まれ変わった君と再び出逢った。
私は君に罪悪感を抱いていて、君の目を見ることができなかった。
それなのに。何も知らないはずの君は、まるで全てを見透かすような瞳でまっすぐ私を見つめ、そして笑った。
きっと君と再会できたのは運命だったのだろうと、そう思う。
――いや、運命じゃなくてもいい。
また生まれ変わった君に、必ず会いに行くから。君が会いに来る前に、私が見つけに行くよ。
1000年先、いや、ずっとその先の未来も、君と共に生きる為に。何度も何度も君に会いに行く。
『1000年先も』
「もうすぐ卒業だなぁ」
高校三年の三学期。なんとか受験も終わり、久しぶりに登校した登校日。彼と二人きりの、放課後の教室。
いろんな想いが籠もっているのか、それとも何も感じていないのか。彼がぽつりとそう呟いた。
「そうだね……」
私はバッグから小さな花束を渡した。
「あげるよ」
青い小さな花。
私の好きな花。
「おー。さすが園芸部。ありがとう」
嬉しそうに受け取ってくれた。
「これ、知ってる。あれだろ、よく外で見る……オオイヌノフグリ!」
全然違い過ぎて笑った。
オオイヌノフグリって、たしかに青くて小さなかわいらしい花だけど。それに対して名前が酷過ぎる花だけど(犬のピ――)。
「違うよ。勿忘草」
「あ、聞いたことある。『私を忘れないで』って花言葉のやつだ。へーこれが」
彼は笑いながら私の頭にぽんと手を置いた。
「安心しろよ。ぜってー忘れねえって」
その言葉に、私も笑顔になった。
……でもね。
勿忘草の花言葉は確かに『私を忘れないで』だけど、青い勿忘草の花言葉は『真実の愛』や『誠の愛』なんだよ。
『勿忘草(わすれなぐさ)』
「ブラコンが欲しい」
息子がそう言った。
ブラコン?
ブラザーコンプレックス?
いや、さすがにわかってますよ。
ブラコンじゃなくてブランコね。子供特有の言い間違いね。
一生懸命作ったよ。
庭にある木に、ロープと板を括り付けて。パンダが遊ぶようなあんなものじゃない。ちゃんとした、立派なブランコだ。
息子に自慢気に見せた。
どうだ。これがお父さんが作ったブランコだ。君の為に作ったブランコだ!
「違う! ブラコンなの!」
違う!? ブラコンなの!?
あれか? 兄弟が欲しい的なことだったのか!?
よくよく話を聞いてみれば、ブラックコンテンポラリーという音楽のジャンルがあるらしく、その音楽が聴きたい。という意味だったらしい。どこで知ったんだそれ。
わかるかぁー!!
顧客が本当に必要だったもの。
その通りのものを用意するのって、本当に難しい……。
『ブランコ』
昔々世界を支配しようとする悪い魔王がいました。
人間達は力を合わせ戦いました。
しかし、魔王は強く、なかなか倒せません。
ある日、人間の中でも特別な力を持った勇者が魔王を倒す為に旅に出ました。
そして見事、魔王を討ち取ってくれました。
旅路の果てに見た景色は、それはとても美しかったと言います。
こうして、世界に平和が訪れました――……
と思う?
力を合わせていた人間達は、その目的がなくなった途端、敵対し始めました。
自分の土地以外も欲しくなってしまったのです。
醜く殺し合い、人間達こそが魔物になってしまいました。
勇者が見た旅路の果ての、その先にあったものは、醜い世界でした。
その後、世界に新たな魔王が現れました。
それは、元来勇者と呼ばれていた人間でした。
世界に平和を取り戻す為に、人間達の気持ちをまとめる為に、勇者は魔王であり続けることを誓ったのでした。
『旅路の果てに』