田舎の村さ住んでるおらは、都会の街にある高校受験する為さバスさ乗った。
街さ行ぐなんて初めでの出来事。しかも一人だ。もうこれは一づの冒険だ!
わぐわぐど不安抱えでバス降り、電車さ数十分揺られるど、見だごどもねえ高え……何あれ? あれがビル? 高過ぎる。そだ高えビルが建ぢ並ぶ街へど降り立った。
こだ高え建物、倒ぼっこしたらどうなっちまうんだべー。おっかねえ。
そだ風さキョロキョロ辺り見回しつづ、少し歩ぐど良い匂いが漂ってぎだ。どうやら飲食街のようだ。そういえばドキドキしてで朝ご飯食べるのすら忘れでだ。
見だごどもねえメニューが並ぶ店さ入る。そういえば、一人で外食するのなんて初めでだ。ますますドキドキしてぎだ。
「イラッシャイマセー」
なんだが片言の外国人が声掛げでくる。
とりあえずメニュー指差す。暫ぐするど料理が運ばれでぎだ。正直、んめぇのがはわがらねがった。
店出るど、ホテル探し始めだ。
受験自体は明日で、今日はホテルさ泊まり混みで勉強するんだ。あど、受験会場も確認しておがねえど。ホテルの近ぐさあるらしいがら、そらほど見づげんのは難しくねえどは思うげんとも。
親さ渡されだ地図見る……雑でよぐわがらねがった。
仕方なぐ、周りの人さ声掛げるごどにする。
「あのー……すまねえ」
「Ce qui s'est passé?」
「え! えっと……!」
やばい。外国人だ。何言ってるがわがんねえ。
「えっと、えっと……すまねえー!」
おらはダッシュで逃げ出した。名も知らぬ外国人さんごめんなーい!
暫ぐ歩って、余計さ場所がわがらなぐなった。
今度ごそ日本人さ話し掛げっぺ。
「あ、あの、すまねえ……」
「什么? 我现在很忙!」
まだ日本人でねがった……アジア人だげんとも、間違えだ……。
「すまねえでしたー!」
そしてまだ逃げ出した。
なんでこらほど外国人がいんの? はっ! もしかして、都会は外国人さ乗っ取られぢまった!? おっかねえ。
「よぉ、姉ちゃん。なんかお困りかい?」
日本語だ!
振り返るど、そごさはスーツ着でサングラス掛げだ強面の男の人が……。
ヤ、ヤクザだー!
殺される。わがねだ。おらには田舎で待ってる爺さまや婆さまや父っつぁまやおっかさまやポチがいんだ。死にだぐねえよー!
都会おっかねえ。もう都会になんて来ねえ!
ヤクザはおらの手がらひょいど地図取り上げだ。
「ん? このホテル行きたいんか?」
……え?
思わず顔上げ、こぐごぐど頷ぐ。
「ホテルならここだよ」
え!?
気付げば、目の前さホテルがあった。どうやら周辺ぐるぐる回っていだだげのようだ。しょうしい。
「そうかぁ、お客さんか。ようこそ、うちのホテルへ」
えぇ!?
ヤクザでねぐで、このホテルの人!?
「それでは受付へ参りましょう。お荷物お持ちします」
さっとおらから荷物受げ取るど、すたすたど前歩ぎエスコートしてくれる。
何これ、さすけねえ? 騙されでねえ? 本当は悪の秘密結社だったりしねえ?
中さ入るど、受付さ見覚えのある外国人が――。
「Ah! La personne de tout à l’heure !」
「也许你也会留在这里?」
何言ってるがわがんねえげんとも、とりあえず笑ってごまがしておぐべ。
「もしかしてあなたもそこの高校を受験するんですか?」
さっきのヤクザ……でねぐでホテルの人が訊いでくる。おらは頷いだ。
「じゃあこの二人と一緒ですね」
え! この人らも受験生!?
「エ、アンタモ!?」
「ヨロシクネー!」
アジア人が驚いだ様子でこっち見る。白人がおらの手取りぶんぶんと振ってくる。
つーが日本語話せだんかい。
「こちらが部屋の鍵です」
鍵受げ取っぺどするど、白人がそれ横がら取り上げだ。
「え、おらの鍵」
「ジャア、ミンナデベンキョウダー!」
「部屋イクヨ」
「え、え、なんで二人どもおらの部屋さ来るごどに!?」
「受験頑張って」
ヤクザみてえなホテルの人も二人を止めでくれるごどなぐ、笑顔で手振る。おらは半ば引ぎずられるように部屋へど向がった。
都会って、街って、おっかねえ。
早ぐ田舎さ帰りでえ。田舎の村でのんびりしてえ。
なんで村には高校がねえの。街まで出ねえどいげねえって本気で言ってる?
おらの初めでの冒険は、こうして始まったのだった。
『街へ』
私は他人に優しくする。
情けは人の為ならずと言うし、きっと巡り巡って自分に返ってくるはずだから。
今日も他人に親切にした。
一日一善。良い気分。
今日は面倒臭いことに巻き込まれた。
最終的に自分が被害を受けた。
笑える。いや、笑えないけど。
なんで私がこんな目に遭ってるの? 普段助けてあげてるんだから、こういう時は私の力になるべきじゃないの?
結局こうしていつも私が貧乏くじを引く。
優しくしたって意味がないと気付く。
何の為に優しくしてやってると思ってんだ。見返りを求めない優しさなんてあるわけないだろ。綺麗事で生きていけるほど世の中甘くないんだよ。
『優しさ』
深夜に首都高を駆け抜ける。車はまだたくさん走っていて、ランプの光が向こうからこちらへ、こちらから向こうへ。四方八方へと散らばっていく。
適当にラジオをつけると、誰かのトークや人気のナンバーが流れてくる。内容を聞くというよりもBGMとして流す。
真夜中0時丁度。
工場地帯に辿り着き、車から降りる。
近未来を感じさせる建物の光が幻想的な風景を生み出している。
深夜のドライブ。目的地はこの夜景。
冷たい風を感じながら、ただそれを眺める。定期的にやりたくなる趣味だ。
夜景を見ながら、仕事のこと、人間関係のこと、人生のことなんていう、途方もないことを考える。それより、明日も仕事だから、そろそろ帰って眠らないとまずい。いつも最終的にはこの考えに至り、帰り支度を始める。
まだ見ていたい気持ちも勿論ある。離れてしまうのが勿体ない。でもこの場所はなくならない、少なくともきっと何十年かは。だから、また近いうちに来ようと心に決める。
日付が変わってラジオの番組も変わっている。またそれをBGMにして、帰路につく。
『ミッドナイト』
彼女がかわいくなった。
一緒に歩いていると男達の視線を感じる。確実に見ている。
得意な気持ちになる反面、とても不安になる。
僕らの始まりは、彼女からの告白だった。
通学の電車が一緒で、学校でもよくすれ違っていたらしいが、あまり記憶にない。
告白してきた彼女のことは正直ブスだと思ったが、告白されて有頂天になり、付き合うことを承諾してしまった。
少し後悔もしたが、彼女持ちというステータスを得られたことを考えると、まぁとりあえず付き合っといてもいいかと思った。それに、この顔なら浮気もできないだろうし、僕のことだけ好きでいてくれるんじゃないだろうか。そう思うと安心できる。
そんな彼女がかわいくなった。
道行く人が振り返るレベルだ。不安しかない。
いつかイケメンと浮気されるんじゃないか? そしてフラれるんじゃないか? いや、もしかしたらもう別の男がいるのかもしれない。だってこんなにかわいくなったんだ。人は恋をするとかわいくなると聞いたことがある。
彼女が部屋に遊びに来た。
「たまにはお家デートもいいね」と嬉しそうに笑った。
僕は安心したかった。
彼女が部屋に上がったのを確認して、扉の鍵をゆっくり閉めた。
『安心と不安』
ずっとずっと好きだった。
子供の頃は気を引きたくて、酷いこともたくさんしてしまったと思う。
同じ小学校、そして、中学校、高校と、ずっと一緒だった。高校は、偶然を装って同じところを選んだんだけど。
成長して、周りに流されたのもあったけど、ようやくお前に告白した。
そうして晴れて俺達はカップルになった。
それから今日が初めてのデート。
お前が好きそうな場所を調べて、いろんなところに連れて行った。一緒にいるだけで楽しかった。
最後に海へとやって来た。
その浜辺で夕日が沈むのを見ていた。
お前が一歩前に出る。なんとなく消えてしまいそうな儚さを感じて、思わず手を掴む。
そのままこちらへ引っ張る。
「好きだ」
改めて告げる。
お前が振り返る。
逆光になって、その顔がどんな表情をしているのか全く見えなかった。
『逆光』