川柳えむ

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 彼女がかわいくなった。
 一緒に歩いていると男達の視線を感じる。確実に見ている。
 得意な気持ちになる反面、とても不安になる。

 僕らの始まりは、彼女からの告白だった。
 通学の電車が一緒で、学校でもよくすれ違っていたらしいが、あまり記憶にない。
 告白してきた彼女のことは正直ブスだと思ったが、告白されて有頂天になり、付き合うことを承諾してしまった。
 少し後悔もしたが、彼女持ちというステータスを得られたことを考えると、まぁとりあえず付き合っといてもいいかと思った。それに、この顔なら浮気もできないだろうし、僕のことだけ好きでいてくれるんじゃないだろうか。そう思うと安心できる。

 そんな彼女がかわいくなった。
 道行く人が振り返るレベルだ。不安しかない。
 いつかイケメンと浮気されるんじゃないか? そしてフラれるんじゃないか? いや、もしかしたらもう別の男がいるのかもしれない。だってこんなにかわいくなったんだ。人は恋をするとかわいくなると聞いたことがある。

 彼女が部屋に遊びに来た。
「たまにはお家デートもいいね」と嬉しそうに笑った。
 僕は安心したかった。
 彼女が部屋に上がったのを確認して、扉の鍵をゆっくり閉めた。


『安心と不安』

1/25/2024, 10:50:04 PM