川柳えむ

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1/21/2024, 10:23:08 PM

 少し贅沢をして、自分の好きなものをお腹いっぱい食べる。
 温かいお風呂にアロマオイルを垂らし、ゆっくりと浸かる。
 お風呂から上がって、ベッドに入り、電気を消してランプを灯し、その明かりの下で本を読む。
 そして眠くなってきて、ランプを消して、代わりに家庭用のプラネタリウムのスイッチをオンにする。
 満天の人工の星空の下で、良い気分で目を閉じる。
 何でもない夜。でも、少しだけ、自分で特別にしてみる夜。


『特別な夜』

1/21/2024, 5:16:07 AM

 見上げるとずっと上の方がキラキラと輝いている。
 その光を見て、これが美しいということなのだと知った。
 ――あぁ、あの光の中へ行けば、私も美しくなれるかしら?
 誘われるように、あの光り輝く場所へ。

 途端に引っ張り上げられた。
「……っ、大漁だ!」
 光の中へ連れ込まれた。きっとそこは美しい世界なんだと信じていた。
 ――眩しい。……苦しい。息が、できない。
 世界は残酷だった。
 私の居場所はあそこしかなかったのだと知った。今更、もう遅いけど。


『海の底』

1/19/2024, 10:19:07 PM

 急に君に会いたくなって、君の最寄りまでの切符を買ったよ。
「連絡してよ!」って怒られるのはいいけど、追い返さないでほしいな。
 明日は日曜日だし、君が前から行きたがっていたカフェに行こうよ。
 発車ベルが鳴る。
 君の驚きながらも笑う顔を思い浮かべながら、揺れる電車にうとうとと目を閉じた。


『君に会いたくて』

1/19/2024, 12:58:50 AM

 表紙から裏表紙まで真っ黒な日記があった。
 中のページは白いが、書かれている内容は真っ黒――闇だった。
 その日あった出来事、そして、「今日もあいつはああだった」「どうしてこれすらダメなのか」「ふざけるな」「許せない」……そんなことばかりが書かれていた。

 久しぶりにその日記を見つけた。
「そういやこんなの書いてたなぁ」と感慨深い気持ちにすらなった。
 あの時の私は病んでいて、この黒い日記に書き殴ることで精神を保っていた。暫くして限界を迎え、少し休むことになり、今はこうして落ち着いている。
 ここに至るまでは大変な道程だったが、今なら「いろいろあったなぁ」と、まるで他人事のように思うことができる。
 もう大丈夫。日記は閉ざされ、二度と開かれることはない。
 燃えるゴミの袋に投げ入れると、口をきゅっと絞めた。


『閉ざされた日記』

1/17/2024, 10:40:43 PM

 木枯らしが吹き始めた。
 細く枯れ細った老いた木は、そろそろ自分の終わりを感じた。
 それなりに生きて長くこの景色を見てきたし、満足していた。それと同時に、やはり寂しくも思った。
 びゅうびゅうと風は容赦なく吹き付ける。
 枝がもげ、宙に舞った。
 その様子を見て、ああやって空を飛べるなら、いろんな景色を見られるのかもしれないと、少し慰めされたような気持ちになった。
 風はいよいよ勢いを増し、木を根元から攫っていった。


『木枯らし』

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