川柳えむ

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12/28/2023, 4:23:55 AM

 道端に手袋が片方落ちている。
 ――なんでこんなところに?
 ふと、考えてみる。

 母に抱っこされた子供。嵌めていた手袋をもう片方の手で引っ張って脱いでしまう。
 それを握ったまま手を振り上げたりしていたが、ふと手から取り落としてしまう。
 母は気付かない。
 そうして、手袋は道端に置き去りにされたまま。帰ってこない持ち主をここで待っているのだ。

 ――いや、絶対違うな。
 だって、どう見てもこれは大人の男のサイズの手袋だ。
 ならば、こういうことがあったとか?

 年末。忘年会シーズン。
 酔っ払った男は、持っていた鞄もちゃんと閉じず、そこから持ち歩いてた片方の手袋が落ちたことにも気付かず。
 かわいそうに。手袋はそのまま気付かれずに置いていかれてしまった。

 ――めちゃくちゃありそう。むしろそれだろう。
 でもそれじゃあロマンがない。
 せっかくなので、もっとロマンチックな出来事を考えてみる。

 年の瀬。カップルが北風吹きすさぶ道を歩く。
 彼女の冷えた手を、彼がそっと自分のコートのポケットに招き入れた。
 元々付けていた邪魔な手袋は反対側のポケットへ。
 そのポケットから零れ落ち、道端に残していったことにも気付かない。彼には彼女しか見えていない。
 手袋はそんな二人の後ろ姿を静かに見送った。

 ――よし、これだ。これでいこう。
 これでいこうって何だ。全ては単なる想像だ。
 真実は落ちているその手袋しか知らない。


『手ぶくろ』

12/27/2023, 5:04:20 AM

 変わらないものはない。

 ――というお題を元に物語を執筆していた。
 なかなか良さそうな物語が書けた。ちゃんとした物語だ。

 操作をミスした。
 一瞬で書いたものが消えた。
 これだからスマホは嫌いなんだ。パソコンならCtrl+Zで一つ手前の作業に戻せるのに。
 泣きたい。

 変わってしまった。物語が、一瞬で、白紙に。

 変わらないものはない。
 わかっているけど。そうじゃない。
 こういうのは、時間が経ち、街並みが変わってしまったとか、人が変わってしまったとか、そういった物語の為にあるもので。
 物語を白紙に変える為のものではなくて。
 今、その実体験は、いらない……。


『変わらないものはない』

12/25/2023, 8:54:50 PM

 今時誰もやっていないだろう個人サイトをクリスマス仕様にして。
 とりあえずせっかくのクリスマスだからと、お酒とチキン、ケーキを飲み食いして。
 なんとなくクリスマスソングを流してみて。
 見たい特別番組を見て。
 サンタクロースを追跡して。
 急に街が見たくなって、でもわざわざ人混みを出歩くのも大変だしと、窓を開けて冬の空気を感じて。
 近所の家のイルミネーションが視界に入って。
 みんながいろいろなクリスマスを過ごしているんだろうなぁ、と思いを馳せる。そんな少しだけ特別な日。


『クリスマスの過ごし方』

12/24/2023, 12:00:04 PM

「クリスマスだー!」
 いつもの面子で集まるクリスマスイブ。ここ数年、毎年恒例になっているイベントだ。
 七面鳥にシャンメリー、もちろんケーキも用意してある。
 高々とグラスを掲げる。「かんぱーい!」と弾んだ声、グラスのぶつかり合う音が部屋に響く。
 部屋にクリスマスソングが流れる。それに合わせて歌い出す人がいる。
 料理をつまみながら、一方ではゲームをやっている人もいる。
 それなりの人数が集まっているから、各々好きなことを自由にやっている。それが許される空間なのだ。
 大好きな人達と、こうやって集まって騒げることが幸せだと、みんな感じていた。
 今年も楽しいイブの夜が更けていく。


『イブの夜』

12/24/2023, 3:20:45 AM

 この日の為に、君の好きなことをいっぱいリサーチしたんだ。
 君の好きな食べ物、好きな本、好きな歌、好きなアイドル、好きな服、好きなアクセサリー、好きなブランド……。
 いろんなものをたくさん調べて、そして、最高のプレゼントを用意した。

 そして迎えたクリスマスイブ。
 キラキラと輝くイルミネーション。街に流れるクリスマスソング。
 たった一人立ち尽くす僕。誘ったはずの君。
 手からは一生懸命用意したプレゼントが所在無げに揺れている。
 今日は仕事なかったよね? 連絡がつかないのは、何か他のことが忙しいのかな?
 一応既読はついてるから、事故に遭ったとかじゃないよね。それは安心だ。
 ……………………うん、忙しいんだ、よ、ね。
 北風が心に沁みた。


『プレゼント』

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