道端に手袋が片方落ちている。
――なんでこんなところに?
ふと、考えてみる。
母に抱っこされた子供。嵌めていた手袋をもう片方の手で引っ張って脱いでしまう。
それを握ったまま手を振り上げたりしていたが、ふと手から取り落としてしまう。
母は気付かない。
そうして、手袋は道端に置き去りにされたまま。帰ってこない持ち主をここで待っているのだ。
――いや、絶対違うな。
だって、どう見てもこれは大人の男のサイズの手袋だ。
ならば、こういうことがあったとか?
年末。忘年会シーズン。
酔っ払った男は、持っていた鞄もちゃんと閉じず、そこから持ち歩いてた片方の手袋が落ちたことにも気付かず。
かわいそうに。手袋はそのまま気付かれずに置いていかれてしまった。
――めちゃくちゃありそう。むしろそれだろう。
でもそれじゃあロマンがない。
せっかくなので、もっとロマンチックな出来事を考えてみる。
年の瀬。カップルが北風吹きすさぶ道を歩く。
彼女の冷えた手を、彼がそっと自分のコートのポケットに招き入れた。
元々付けていた邪魔な手袋は反対側のポケットへ。
そのポケットから零れ落ち、道端に残していったことにも気付かない。彼には彼女しか見えていない。
手袋はそんな二人の後ろ姿を静かに見送った。
――よし、これだ。これでいこう。
これでいこうって何だ。全ては単なる想像だ。
真実は落ちているその手袋しか知らない。
『手ぶくろ』
12/28/2023, 4:23:55 AM