お題『もう一歩だけ、』
(一次創作・いつもの!夏菜子のターン)
優斗、中村くん、由香里、そして私。
4人で行った夏祭りはみんなに大迷惑をかけてしまった。全て私の幼なさ故のことなので反省するしかない。
そもそも、優斗と私は付き合っているわけじゃない。告白したこともされたこともない。それなのに一人前にヤキモチを妬いて……はぁ、みっともないことこの上ない。
私はもう一歩だけとは言わず、駆け足で大人になった方がいい。
由香里にはとても気を使わせてしまった。あのときふたりだけにしてくれなかったら、優斗と仲直りできなかったかもしれない。
それと、由香里は大丈夫かな……。わたあめを買いに行ったときのこと。慣れない下駄の鼻緒で指の股が擦り切れたらしい。幸いにも中村くんが持っていたテーピングで応急処置をしてくれたから私の家までなんとか辿り着けたらしい。
お詫びはクリームソーダでいいと言ってくれた。でも、お礼にケーキも献上したいくらい。由香里が私の友達で本当によかった。大人な対応に心から感謝するより他ない。
そして何より、一番後悔していることがある。
私が中村くんに構ってもらっていたことで、優斗と中村くんがキャッキャウフフしているのが見られなかった!!
私は由香里とそれを眺めながら、
『仲良きことは美しき、よね』
と話しながらニコニコしていたかっただけなのに。
由香里は腐ってないから、私ひとり胸の内で萌え転がりたかった……くぅッ。
お題『見知らぬ街』
※今回はお休みです
お題『遠雷』
(一次創作・いつものやつ! 優斗のターン)(昨日のお話、書き足ししてるので良ければそちらもよろしくお願いします)
自宅から歩いて20秒。
夏菜子の家は幼馴染みという言葉が相応しすぎるほどのご近所だ。
インターホンを鳴らすと夏菜子のお母さんが出てきた。
「こんにちは、おばさん」
なるべく爽やかに言ったつもりだけど、そう思われているだろうか?
『優斗くん、こんにちは。これから夏菜子たちが出るから。エスコートをよろしくお願いします』
……ん? 夏菜子【たち】?
俺はなぜかくっついて来たオマケの中村と思わず顔を見合わせた。
そこにカラコロと軽やかな音が玄関を押しのけてやってきた。
「こんにちは。あ! やっぱり中村くんもいる!!」
嬉しそうに顔をパッと明るくした浴衣姿の夏菜子だけど、もしかして中村目当てで祭りに行きたいと言ったのか?
俺の思いを他所に、夏菜子の後ろからひとりの女子がひょこりと頭を出した。
「はじめまして、夏菜子の同級生の内藤由香里です」
そう言って彼女は頭を深々と下げた。
うっ、夏菜子と甲乙つけ難いぐらいかわいい。具体的にどこがかわいいかと言うと、まず声。高めの音域なのにキーキーしない。鈴が転がるような声というのはこういうことを言うのか。他にもそばかすの浮いた白い肌とか、守ってあげたくなるような小さな背丈とか。
「あー! 優斗、鼻の下伸びてる!!」
夏菜子はわざとらしくむくれたかと思うと、中村の腕を掴んだ。
「え? ええ……夏菜子様、いいのですか?」
え、ま、マジ……?
「鼻の下が伸びてるというのは今の中村みたいな顔のことを言うんだぞ!?」
しかし夏菜子は臍を曲げたようだ。フンっとそっぽを向いた。
遠くで雷の音がしたような気がした。
なぜこのようになったかと言うと。
「あのですね、夏菜子から今日中山くんと夏祭りに行くって聞いて、羨ましがってたのです。そうしたら中山くんのお友達も多分来るから、4人でお祭りを満喫しよう! という話になり、夏菜子のお母さんに浴衣を着付けていただいたのです」
ここまで、内藤さん・談。
そしてそこからの流れ、以下略。
夏菜子は完全にご立腹らしい、中村の腕を離さない。内藤さんは内藤さんで夏菜子とは反対側の中村サイドにいる。
俺、完全にアウェイじゃねぇか!
そうこうしているうちに夏祭り会場の神社に到着した。
4人で軽くお参りを済ませて、祭りの本番とも言える屋台に繰り出す。焼きとうもろこしの香ばしい香りや、かき氷を掻くシャリシャリという音、暗闇でも光るブレスレットの灯り……本来ならばどれもワクワクする風物詩だ。
だけど俺の隣は閑古鳥。対する中村は両手に花。
夏菜子は俺と目が合うとツンと顔を逸らす。俺は俺で不貞腐れて、これじゃあ中村と内藤さんは困惑していても不思議じゃない。
「ごめん、内藤さん。はじめましてなのにこんな微妙な空気にして」
内藤さんはふるふると首を振ると、中村を見上げてた。
「私、わたあめが食べたいのです。中村くん、行こ?」
「へ、俺? いいけど……」
中村は俺と夏菜子を一瞥したが、内藤さんに腕を引っ張られて人混みへと消えていった。
「夏菜子」
「……何?」
相変わらず俺の目を見ない夏菜子に、俺は少しイラついた。
『ちょっと他の女の子を見ただけじゃん』
いや、違うな。
『中村ばっかりモテて、ちょっと僻んだ』
これも違う。
あー! もー!!
「夏菜子、ごめん! 俺が悪かった!!」
夏菜子に向かって俺は深く深く頭を下げた。
「……もういいよ」
すん、と鼻を啜る音が聞こえた。
「私も優斗のこと、からかいすぎたし」
夏菜子の手を取れば嫌がっていないらしい、握り返してきた。
「はあああああああ〜〜〜……」
仲直りできたことに安堵の特大ため息を吐いてしまう。
「……ぷっ。何それ」
夏菜子は吹き出している。そうそう、お前には笑顔がよく似合う。
それから俺たちは何もかもを忘れて祭りを楽しんだ。
何もかも忘れ過ぎて、中村と内藤さんを置いて帰ってしまった……。
中村とは双葉町のカフェのクリームソーダで手を打ったけど、内藤さんにはなんとお詫びをすれば——
しかし内藤さんは「気にしてないです」と言う。
「え、でも……」
「本当にいいんです。常日頃ニコニコしている夏菜子のむくれっ面というSRを拝めたので」
すると慌てたのは夏菜子だった。
「お願い由香里! 今日のことはみんなには内緒で! ね?」
「仕方ないなぁ……それじゃあ、私もクリームソーダが飲みたい」
と、いうわけで今度4人で例のカフェに行くことになったのだった。
雷雲はどこかへ行った……かな?
お題『Midnight Blue』
通話アプリのチャット機能にて。
《こんばんは。私は勉強の休憩中。優斗は何してるの?》
《夏菜子、おつかれ! 俺はストレッチしてた。なぁ、聞いてくれよ》
《?》
《今日、部活に姉さんが降臨した!》
《!?》
《ヤマセン……顧問の山田先生から、俺の姉さんからだって差し入れ渡されてさ》
《優斗それって》
《姉さんまだ帰ってきてないんだけどな。まあ念のためにあとで本人にも確認取るけど》
《ごめん優斗、多分それ私》
《!?》
《優斗たちの練習風景、見れるかなって。顧問だって言うおじさんに差し入れのスポドリ渡した!》
《なんだぁ……よかった、知ってる奴で》
《明日も練習?》
《午前中だけ。夏菜子は塾?》
《こちらも午前中だけ》
《そうなんだ。それじゃあ夕方から出かけないか?》
《もしかして夏祭り!》
《うん、そう》
《やったー! 行く行く!!》
——こうして若き二人の青い春の夜更けは過ぎていくのであった。
お題『君と飛び立つ』
(一次創作・最近書いてるやつ! 夏菜子のターン)
塾の夏期講習を終えてからコンビニに立ち寄り、差し入れのスポドリを買って、午後4時の高山第一高等学校に潜入する。目的はもちろん優斗と中村くん。
運が良ければふたりの姿が見れるといいな。あわよくば走っている姿も。
グラウンドはどこかな……。彷徨っていると、後ろから「お嬢さん」という声が聞こえてきた。しまった、多分私のことだ。
恐る恐る振り返れば、ジャージ姿のおじさんが立っている。
「ここは学校関係者以外立ち入り禁止のはずなんだが」
「え、えぇ……っと……」
どうしよう。何も言い訳が出てこない。
「誰かの身内かな?」
「え? あ! はい、そうです!!」
ええーい、嘘も方便!!
「中山優斗の姉です」
するとおじさんは、
「中山のお姉さんでしたか」
そう言って相合を崩した。どうやら優斗を知っている人のようだ。
「いつもお世話になっております」
方便ついでに頭を下げればおじさんは「こちらこそ」と頭を下げる。
「陸上部顧問の山田です」
あらー、まさか顧問の先生と鉢合わせするとは!
「中山が入部してくれてから、陸上部が俄然楽しみになってきました。
弟さんなら今頃100メートルを走っている頃だと思いますが、見て行かれますか?」
見たい! 見たいけれど、そんなことになれば嘘がバレてしまう。
「いえ、私はここで……あ、これ、差し入れです」
私は山田先生にスポドリの入った袋を押し付けた。
「これはこれは……ありがたく受け取らせていただきます。あいつらも喜ぶと思います。
それにしても、体育教師から中山の足の速さを聞いてから、彼が欲しくて欲しくてたまらなかったんです。あいつなら頑張れば社会人でも飛び立っていけます。俺も連れていってほしいぐらいですよ」
何ですって? 優斗のことが【欲しかった】……!? このおじさん、【どっち】だ……??
しかしここで脳内腐女子モードを発動するわけにはいかないと判断する。そんなことになれば間違いなく不審な行動をしてしまう自信があった。
「そうですか……姉として、そう言っていただけて嬉しいです。それでは失礼します」
急ぎ足で高山一高を後にした私は、枯れているおじさまの受け攻めについて考察を巡らせるのであった。
その頃、陸上トラックに、
「俺の姉さん、今ロサンゼルスのはずなんだけど!?」
という優斗の素っ頓狂な声が響いているとか、いないとか。