にえ

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お題『君と飛び立つ』
(一次創作・最近書いてるやつ! 夏菜子のターン)


 塾の夏期講習を終えてからコンビニに立ち寄り、差し入れのスポドリを買って、午後4時の高山第一高等学校に潜入する。目的はもちろん優斗と中村くん。
 運が良ければふたりの姿が見れるといいな。あわよくば走っている姿も。
 グラウンドはどこかな……。彷徨っていると、後ろから「お嬢さん」という声が聞こえてきた。しまった、多分私のことだ。
 恐る恐る振り返れば、ジャージ姿のおじさんが立っている。
「ここは学校関係者以外立ち入り禁止のはずなんだが」
「え、えぇ……っと……」
 どうしよう。何も言い訳が出てこない。
「誰かの身内かな?」
「え? あ! はい、そうです!!」
 ええーい、嘘も方便!!
「中山優斗の姉です」
 するとおじさんは、
「中山のお姉さんでしたか」
そう言って相合を崩した。どうやら優斗を知っている人のようだ。
「いつもお世話になっております」
 方便ついでに頭を下げればおじさんは「こちらこそ」と頭を下げる。
「陸上部顧問の山田です」
 あらー、まさか顧問の先生と鉢合わせするとは!
「中山が入部してくれてから、陸上部が俄然楽しみになってきました。
 弟さんなら今頃100メートルを走っている頃だと思いますが、見て行かれますか?」
 見たい! 見たいけれど、そんなことになれば嘘がバレてしまう。
「いえ、私はここで……あ、これ、差し入れです」
 私は山田先生にスポドリの入った袋を押し付けた。
「これはこれは……ありがたく受け取らせていただきます。あいつらも喜ぶと思います。
 それにしても、体育教師から中山の足の速さを聞いてから、彼が欲しくて欲しくてたまらなかったんです。あいつなら頑張れば社会人でも飛び立っていけます。俺も連れていってほしいぐらいですよ」
 何ですって? 優斗のことが【欲しかった】……!? このおじさん、【どっち】だ……??
 しかしここで脳内腐女子モードを発動するわけにはいかないと判断する。そんなことになれば間違いなく不審な行動をしてしまう自信があった。
「そうですか……姉として、そう言っていただけて嬉しいです。それでは失礼します」

 急ぎ足で高山一高を後にした私は、枯れているおじさまの受け攻めについて考察を巡らせるのであった。

 その頃、陸上トラックに、
「俺の姉さん、今ロサンゼルスのはずなんだけど!?」
という優斗の素っ頓狂な声が響いているとか、いないとか。

8/21/2025, 10:48:39 AM