お題『君と出逢って』
ミヤジ先生の勉強会で初めて出逢った。フェネス兄ちゃんの連れてきたその女は街のどの女の子よりも艶やかな髪。白い頬。そしてしゃんと伸びた背筋。
俺は彼女を見た日から、絶好のおもちゃを見つけたと思った。鼠と遭遇した猫の気分だ。
しかしそのおもちゃで遊ぶには壁が高かった。ミヤジ先生とフェネス兄ちゃんの見守りは完璧で、その女に少しでもちょっかいをかけようものなら、ふたり、特にフェネス兄ちゃんなんか見たこともないような笑顔で詰め寄ってきて、
「君はうちの主様に何か用があるの?」
と凄んでくる。
主様、ということは、この女にミヤジ先生やフェネス兄ちゃんは仕えてるってことか? ますます面白いれぇじゃねぇか。
見てろよ、いつかそのでっかい双璧を越えてやる!
お題『優しくしないで』
(今日は幼女主の話はお休み)
同世代以上の方ならもしかしたら思い出すフレーズかもしれませんね。
そう、オフコースの歌、『愛を止めないで』。
私はあの歌が大好きで大好きで……。この楽曲に限らずオフコースは名曲揃いです。
この曲以外だと『言葉にできない』も胸を掴まれます。
聴いたことがない、という若い世代の方でも、オフコースの歌は必ずどこかで耳にしていると思います。ビートルズやロバータ・フラックのように。
歌は時として聴く人をやさしく包み込んでくれたり、またある時はそっと寄り添ってくれたり……。
誰かに諭されるよりも、歌だとスコンと胸に落ちたりもします。
『優しくしないで』
そんな気分のときは、ひとしきり泣いて。
それから耳に素敵な音楽を。唇にはきらきらと輝く歌を。目には美しい風景を。
きれいなもので心を宥めてみるのもいいかもしれませんね。
お題『楽園』
「おはよう……フェネス……」
まだ眠い眼を擦りながら、今日も主様は目を覚ましてくださった。
明日もそうであってほしいし、明後日も、その先もずっと……。
だけど俺たちは主様と別の時間を生きている。俺は死ぬことはあれど不老の身だ。いつか主様を見送る日がきてしまうかもしれない。そう思ったら主様の最期が訪れたら、この命も燃やし尽くしたくなる。
——いけない。こんなことを考えていたら聡い主様のことだ。気づかれてしま——
「ねぇねぇ、フェネス。なにかかなしいことがあったの?」
ほら、この通りだ。
「いいえ、主様。何でもありませんよ。
そんなことよりも、今朝はレモンケーキにダージリンです」
主様はテーブルと俺を交互に何度か見ていたが、俺をちょいちょいと手招きして、だっこをねだってきた。
「いかがなさいましたか? 今日はいつになく甘えたですね……って、え?」
俺の髪を撫でながら、主様は幾度となく「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と呟いている。
「わたしも、フェネスもだいじょうぶだから」
はぁ……やっぱり主様には敵わないな。
「そうですね。主様のおかげで俺も元気が出てきました」
そう笑ってみせたら主様も満足そうに笑った。
腕から下ろした主様に本日の予定をお伝えする。レモンケーキを頬張りながら聞いている主様がたまらなく愛おしい。
主様がいてくださるここは、今日も楽園。
お題『今日の心模様』
(今回はいつもの幼女主ちゃんの話から離れます)
*****
本日の私のココロの景色は、【「曇のち曇、一時的に小雨」の中に立ち尽くした丘の上の一本の木】といったところか。
今朝は早くから家を出て、かかりつけの内科へ採血に。眠くて曇。
実はアタクシ、いっぱい病気を抱えています。
リンパ腫を筆頭に、子宮内膜増殖症、脊柱管狭窄症、脊椎側湾えとせとらえとせとら。
直近では風邪をひき、近所の総合病院で検査してもらった結果に納得がいかなくてかかりつけ医に。結果、気管支炎を起こしていたことが判明。
昼間は「あー、いっぱい病気あるなー」と思ってしょんぼりで曇。
夕方、朝採血した検査結果発表。
まず、痩せてください。検査結果に反映されています。
「はい」
心電図は異常ないです。
「はい」
HbA1cが……えっ?
「……身に覚えしかないです、先生」
1ヶ月後にMRIね。膵臓診るから。
「はい……あと先生」
何かな?
「喉にくっつくような違和感があるんですけど」
それは太ったからだね。痩せようか。
「……ふぁい」
会計待ちの間、小雨。
でも俯瞰して診ると、そんなに悪い人生でもないんですよ。不思議なことに。
立ち尽くした丘の上の一本の木は寂しいように見えて、実はさまざまなバクテリアやらなんやらに囲まれていて、それなりにわやわやと楽しくやっています。時には遠くの友達とヤッホーなんて言い合ったりして。
だから、今日はたまたまお天気が悪かっただけ。
待ってろ来月!
ほんのちょっぴり痩せて行くからな!!
お題『それでいい』
朝、屋敷の窓という窓を開けることから俺の一日は始まる。新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込めば、ほんのりと薔薇の香りがした。眼下ではアモンが薔薇の手入れをしている。
2階の廊下の窓を開けるために主様の寝室のドアをノックした。相変わらずお寝坊をしているようだ。
「さあ、空気の入れ替えをしますよ」
そう声をかけて部屋に入れば、フェネスは主様の布団に突っ伏して寝ていた。飛び起きたフェネスの顔には布団皺と、口の端に涎の跡が。どうやら昨夜も主様の寝かしつけをしていてそのまま一緒に眠ってしまったようだ。
「は、ハウレス、おはよう……つい眠ってた」
「よく寝ていたみたいだな、フェネス。起きたついでに主様を起こして差し上げてくれないか?」
顔を真っ赤に染めて己の行動を恥じているフェネスだったが、俺はそれでいいと思った。主様はまだ10歳だ。ひとりで眠るのは寂しいだろう。
妹のトリシアが同じくらいの年頃だったとき、身を寄せ合い、寒さを凌ぎながら微睡んだのを思い出した。