お題『楽園』
「おはよう……フェネス……」
まだ眠い眼を擦りながら、今日も主様は目を覚ましてくださった。
明日もそうであってほしいし、明後日も、その先もずっと……。
だけど俺たちは主様と別の時間を生きている。俺は死ぬことはあれど不老の身だ。いつか主様を見送る日がきてしまうかもしれない。そう思ったら主様の最期が訪れたら、この命も燃やし尽くしたくなる。
——いけない。こんなことを考えていたら聡い主様のことだ。気づかれてしま——
「ねぇねぇ、フェネス。なにかかなしいことがあったの?」
ほら、この通りだ。
「いいえ、主様。何でもありませんよ。
そんなことよりも、今朝はレモンケーキにダージリンです」
主様はテーブルと俺を交互に何度か見ていたが、俺をちょいちょいと手招きして、だっこをねだってきた。
「いかがなさいましたか? 今日はいつになく甘えたですね……って、え?」
俺の髪を撫でながら、主様は幾度となく「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と呟いている。
「わたしも、フェネスもだいじょうぶだから」
はぁ……やっぱり主様には敵わないな。
「そうですね。主様のおかげで俺も元気が出てきました」
そう笑ってみせたら主様も満足そうに笑った。
腕から下ろした主様に本日の予定をお伝えする。レモンケーキを頬張りながら聞いている主様がたまらなく愛おしい。
主様がいてくださるここは、今日も楽園。
4/30/2024, 1:33:58 PM