お題『それでいい』
朝、屋敷の窓という窓を開けることから俺の一日は始まる。新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込めば、ほんのりと薔薇の香りがした。眼下ではアモンが薔薇の手入れをしている。
2階の廊下の窓を開けるために主様の寝室のドアをノックした。相変わらずお寝坊をしているようだ。
「さあ、空気の入れ替えをしますよ」
そう声をかけて部屋に入れば、フェネスは主様の布団に突っ伏して寝ていた。飛び起きたフェネスの顔には布団皺と、口の端に涎の跡が。どうやら昨夜も主様の寝かしつけをしていてそのまま一緒に眠ってしまったようだ。
「は、ハウレス、おはよう……つい眠ってた」
「よく寝ていたみたいだな、フェネス。起きたついでに主様を起こして差し上げてくれないか?」
顔を真っ赤に染めて己の行動を恥じているフェネスだったが、俺はそれでいいと思った。主様はまだ10歳だ。ひとりで眠るのは寂しいだろう。
妹のトリシアが同じくらいの年頃だったとき、身を寄せ合い、寒さを凌ぎながら微睡んだのを思い出した。
4/4/2024, 3:09:53 PM