わたしはめがみえない
みみもきこえないし
しゃべれない
もうろうだ
だからこのもじも じつはもじではない
ねんでかいている
いや かいてもいない
ねんをとうしゃしているだけだ
わたしのねんが ぐげんかされて
もじとしてみえているだけだ
そもそも もじやことばなど このよにはそんざいしない
もじとことばという がいねんがあるにすぎない
だからことばとは もじとは
ねっこをたどればひとのおもいであり
ねんなのだ
たとえばなにかいやなことがあったひとはみればわかるし
ことばはいらない
つづく
あとで更新
『言葉はいらない、ただ・・・』
「運命の人と出会える確率って0.00034%なんだって~」
「めっちゃ低いよね~」
学校の帰り道、友達の空美が独特の間延びした声で言った。
空美はNewtonを毎号楽しみに読んでいて、
先号は確率の特集だったらしい。
「そうなんだ」
「それって、ほぼ出会えなくない?笑」
空美の匂いを感じながら、私は言った。
空美はいつもふわふわしていて、
今日もふわふわしていて、
洗い立ての制服は白くてふわふわしていた。
いい匂いがした。
「だよね~笑」
空美はニコニコしながら答えた。
その笑顔に私もついニコニコしてしまう。
………
空美とは、ある雨の日に出会った。
まだ子供の頃、今よりずっともっと子供の頃…。
私は、なぜだかわからないけれど、雨の中を裸足で歩いていた。
雨に濡れながら…傘も差さずに…、歩いていた。
やがて公園にたどり着くと、
砂場で女の子が傘も差さずに一人立ち尽くしていた。
周りに友達らしき子はいない。
いたとしてもこの雨だ。帰ってしまったんだろう。
足元を見るとその女の子も裸足だった。
なにがあったのかはわからないけれど、
その女の子の目の前には大きな砂のお城があって、
そのお城が雨で崩れていた。
たぶんその女の子が作ったお城なんだろう。
女の子はそのお城を見つめたまま立ち尽くしていた。
その姿にふいに記憶が思い起こされる。
友達のいない私は、
同じように一人で砂のお城を作って遊んでいて、
それが雨で崩れてしまったことがあったっけ。
きっとこの女の子も同じなのかな?
そんな状況が重なるなんて、珍しいことだと、
きっと幼少期の私でもわかったんだろう。
それこそ運命の人と出会える確率と言われている
0.00034%くらいのことかもしれない。
シンパシーを感じた私は、なぜだかわからないけれど、
その女の子に声をかけたんだ。
なんて声をかけたかは覚えていないけれど、
その女の子は私を見てにっこり微笑んだ。
それから二人で雨に濡れながら、
一緒に少し遊んだ。
少し経つと、気がつけば雨は止んでいて、
夕焼けが私たちを照らしてくれた。
『雨に佇む』 ☔おわり
君の奏でる音楽
砂を、袋に入れていた。
甲子園の初戦で敗れた私たち高校の野球部は、
丁寧にかき集めながら、
砂を袋に入れていた。
その姿を、私は三塁側の応援席から見ていた。
見ているだけだった。
その姿に、ふと昔のことを思い出した。
砂の記憶。
幼少期の砂場。
友達がいない私は、一人、砂のお城を作って遊んでいたっけ。
360度どこから攻め込まれても迎撃できるように、
ぐるりと砲台で囲まれたお城。
夕方、日が暮れるまで一人でせっせと砂のお城を作っていた。
そうしているうちにパラパラと雨が降ってきて、
360度どこからも迎え撃てるように作った私のお城は、
どんどん崩れて、溶けて、流れてしまった。
なぜ、頑張って作ったのに壊れてしまうのだろう。
なぜ、頑張ったのに負けてしまうのだろう。
その事実に世界の無慈悲を想った。
神様はいじわるだから、たまにこういういたずらをするのかな。
それが運命なのかな。
でも、それでも、どう生きるかは、自分次第なんだよね。
きっと。
…
そっか、それに気づくために、
今ここにいるんだね。
『最初から決まってた』 完
「太陽っていつか燃え尽きてなくなるんだってぇ。」
友達の空美が独特の間延びした喋り方で、
唐突にそんなことを言い出した。
彼女はガーリーでふわふわした見た目からは想像もつかないのだが
科学に興味があり、Newtonを毎号読んでいるような女の子だ。
でも理系というわけではなく、数学が苦手だったりする。
どちらかというと文系寄りで、想像力豊かでいつもとりとめもない妄想をしているような女の子だった。
世の中の不思議なことが科学で説明できてしまうことが彼女には面白く、興味を惹かれるみたいだった。
空美は続けた。
「太陽ってめっちゃでっかいじゃん。」
「でも燃え続けててどんどん大きくなってるんだって。」
「しかもどんどん熱くなってて、5億年後には地球の海水が蒸発しちゃうんだってぇ。」
「それで50億年後には地球は膨張した太陽に飲み込まれちゃうんだって。」
「そしたら地球に住めなくなっちゃうよ。」
「こまっちゃうよねぇ~」
困るどころではないと思うのだが、彼女の危機感ない喋り方がかわいかった。
私はどちらかというと几帳面で、神経質で、いつも些細なことが気になったり、勝手に傷ついたりする。
自分で言うのもなんだが、繊細なタイプだと思う。
そんな私にとって空美みたいな子は、ほっと息をついて張り詰めた神経を休ませてくれる癒しの存在なのだった。
「その頃には生きてないでしょw」
私は突っ込んだ。
それでも何回も生まれ変わって、人生何周もして、また私の意識があるときと、たまたま地球が飲み込まれるタイミングとが重なったらやだな。
なんて、起こりうるかもわからないことを心配している自分が滑稽だった。
「だよね~」
危機感ない喋り方で空美は言った。
空美の洗いたての真っ白でふわふわした制服がかわいかった。
いい匂いがした。
地球が飲み込まれる瞬間も空美と一緒だったら怖くないかも。
私はそんなことを思った。
能天気で太陽みたいな女の子。
空美と一緒なら。
『太陽』 おわり