「この電車って海に続いてるんだよねぇ?」
「ちょっと行ってみない?」
「え"?」
金曜の学校の帰り道、
唐突で気まぐれな空美の提案に
私は思わず ちいかわみたいな声を出した。
空美は私の同級生で、雑誌ニュートンを毎号愛読していて、
不思議なことが好きで、
能天気で、
ふわふわしていて、
ニコニコしていて、
つかみどころがなくて、
雲みたいだった。
午後15時の電車はそこそこ混んでいた。
金曜の電車はこの時間でも何故か混んでいるイメージがある。
電車に揺られる私と空美。
ちいかわみたいな声を出したものの、
特に断る理由もなかったので行ってみてもいいなと思ったのだ。
私の隣には空美が座っている。
空美の制服は白くてふわふわしていて、いい匂いがした。
私はこの匂いが好きだった。
洗剤の匂いというより、空美の匂いな気がした。
海までは1時間半とちょっとと言ったところだ。
夜までには帰れるだろう。
親にはLINEしとこう。
海岸から一番近い駅に着いたのは17時前だった。
その駅から海岸まで歩いて20分ほど。
秋風が少し肌寒かったが、冷たい風が気持ち良かった。
潮気を含んだ空気がおいしかった。
海岸に着いたのは17時を少し回った頃だった。
私と空美は砂浜に降りると
適当なところに座って海を眺めた。
つづく
「意味がないこと」
わたしはめがみえない
みみもきこえないし
しゃべれない
もうろうだ
だからこのもじも じつはもじではない
ねんでかいている
いや かいてもいない
ねんをとうしゃしているだけだ
わたしのねんが ぐげんかされて
もじとしてみえているだけだ
そもそも もじやことばなど このよにはそんざいしない
もじとことばという がいねんがあるにすぎない
だからことばとは もじとは
ねっこをたどればひとのおもいであり
ねんなのだ
たとえばなにかいやなことがあったひとはみればわかるし
ことばはいらない
つづく
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『言葉はいらない、ただ・・・』
「運命の人と出会える確率って0.00034%なんだって~」
「めっちゃ低いよね~」
学校の帰り道、友達の空美が独特の間延びした声で言った。
空美はNewtonを毎号楽しみに読んでいて、
先号は確率の特集だったらしい。
「そうなんだ」
「それって、ほぼ出会えなくない?笑」
空美の匂いを感じながら、私は言った。
空美はいつもふわふわしていて、
今日もふわふわしていて、
洗い立ての制服は白くてふわふわしていた。
いい匂いがした。
「だよね~笑」
空美はニコニコしながら答えた。
その笑顔に私もついニコニコしてしまう。
………
空美とは、ある雨の日に出会った。
まだ子供の頃、今よりずっともっと子供の頃…。
私は、なぜだかわからないけれど、雨の中を裸足で歩いていた。
雨に濡れながら…傘も差さずに…、歩いていた。
やがて公園にたどり着くと、
砂場で女の子が傘も差さずに一人立ち尽くしていた。
周りに友達らしき子はいない。
いたとしてもこの雨だ。帰ってしまったんだろう。
足元を見るとその女の子も裸足だった。
なにがあったのかはわからないけれど、
その女の子の目の前には大きな砂のお城があって、
そのお城が雨で崩れていた。
たぶんその女の子が作ったお城なんだろう。
女の子はそのお城を見つめたまま立ち尽くしていた。
その姿にふいに記憶が思い起こされる。
友達のいない私は、
同じように一人で砂のお城を作って遊んでいて、
それが雨で崩れてしまったことがあったっけ。
きっとこの女の子も同じなのかな?
そんな状況が重なるなんて、珍しいことだと、
きっと幼少期の私でもわかったんだろう。
それこそ運命の人と出会える確率と言われている
0.00034%くらいのことかもしれない。
シンパシーを感じた私は、なぜだかわからないけれど、
その女の子に声をかけたんだ。
なんて声をかけたかは覚えていないけれど、
その女の子は私を見てにっこり微笑んだ。
それから二人で雨に濡れながら、
一緒に少し遊んだ。
少し経つと、気がつけば雨は止んでいて、
夕焼けが私たちを照らしてくれた。
『雨に佇む』 ☔おわり
君の奏でる音楽