「太陽っていつか燃え尽きてなくなるんだってぇ。」
友達の空美が独特の間延びした喋り方で、
唐突にそんなことを言い出した。
彼女はガーリーでふわふわした見た目からは想像もつかないのだが
科学に興味があり、Newtonを毎号読んでいるような女の子だ。
でも理系というわけではなく、数学が苦手だったりする。
どちらかというと文系寄りで、想像力豊かでいつもとりとめもない妄想をしているような女の子だった。
世の中の不思議なことが科学で説明できてしまうことが彼女には面白く、興味を惹かれるみたいだった。
空美は続けた。
「太陽ってめっちゃでっかいじゃん。」
「でも燃え続けててどんどん大きくなってるんだって。」
「しかもどんどん熱くなってて、5億年後には地球の海水が蒸発しちゃうんだってぇ。」
「それで50億年後には地球は膨張した太陽に飲み込まれちゃうんだって。」
「そしたら地球に住めなくなっちゃうよ。」
「こまっちゃうよねぇ~」
困るどころではないと思うのだが、彼女の危機感ない喋り方がかわいかった。
私はどちらかというと几帳面で、神経質で、いつも些細なことが気になったり、勝手に傷ついたりする。
自分で言うのもなんだが、繊細なタイプだと思う。
そんな私にとって空美みたいな子は、ほっと息をついて張り詰めた神経を休ませてくれる癒しの存在なのだった。
「その頃には生きてないでしょw」
私は突っ込んだ。
それでも何回も生まれ変わって、人生何周もして、また私の意識があるときと、たまたま地球が飲み込まれるタイミングとが重なったらやだな。
なんて、起こりうるかもわからないことを心配している自分が滑稽だった。
「だよね~」
危機感ない喋り方で空美は言った。
空美の洗いたての真っ白でふわふわした制服がかわいかった。
いい匂いがした。
地球が飲み込まれる瞬間も空美と一緒だったら怖くないかも。
私はそんなことを思った。
能天気で太陽みたいな女の子。
空美と一緒なら。
『太陽』 おわり
最近ずっと元気がない。
なぜだろう。
毎日に縛られているからか。
世間の常識とやらにがんじがらめになっているからか。
とにかく元気がない。
とにかく明るくない。
とにかく暗い私。
疲れてたのに電車が混んでて座れなかったからか。
乗った車両がたまたま弱冷房車で全然涼しくなかったからか。
スーパーのレジの店員がなんかぶっきらぼうで優しくなかったからか。
疲れてて一人になりたいのに人が多くて神経が摩耗したからか。
なんか世界からぞんざいに扱われている気がする。
ああ、神様ってば。
『それは周りの目を気にしているからさ』
『周りの評価で自分の価値を決めているね』
『そんな顔をしないで』
『気にしなくていいのさ』
『君の価値は君が決めていいのさ』
と、近未来ロボットアニメイションの銀髪の彼に似た彼は言った気がした。
彼はこの世界より上の次元の住人だ。
たまにこうして声が聞こえるのだ。
そうなのだ。
彼以外の周りのみんなはちゃんとしなさいと言うのだ。
ちゃんとってなに?
憲法で基本的人権が守られている日本国に住んでいる私にそれを言う理由を答えよ。
私はちゃんとしたくないのだ。
とにかく自由でいたいのだ。
そうすれば、とにかく元気なはずなのだ。
だから、銀髪の彼の言葉がより身に沁みるのだ。
『そう。それでいいのさ』
『君は君でいい』
『それに気づけたら、また元気になれるさ』
『ほら、今日の終わりを知らせるベルが鳴るよ』
キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン
『今日もお疲れ様』
銀髪の彼がそう言った。
少しだけ元気出た気がした。
『鐘の音』 おしまい
「皆さんは匂いと記憶の関係について知っていますか?」
大学の講堂で心理学の授業中、にこにこしながら教授が話し始めた。
「最近夏の匂いがしてきましたねぇ」
…
ごろごろしてて19時までに書ききれねー😭
つづく
あとで書く
『病室』
『ついに8月になってしまった』
『やっちまった』
7月のカレンダーは7/31までしか見えないが、
8月のカレンダーは8/31が見えるので、
8月になったと同時に夏の終わりを感じてしまうのだ。
つづく
(19時に間に合わないので、あとで編集)
『だから、一人でいたい。』
『皆さんは人を見るとき一番最初にどこを見ますか?』
僧侶が語り始めた。
今日はお寺で説法の日だ。
若いのに渋い趣味を持っていると驚かれるのだが、
私にとってはサウナで整うのと同じようなもので、リフレッシュ&自分を見つめ直す時間になっていた。
以前一度だけ高校の友達を誘って連れていったのだが、
それ以来その話題は出ないところがそのまま友達の感想を物語っているように思えた。
以来、この時間は誰にも邪魔されない私だけの時間となった。
僧侶は続けた。
余談だが、この僧侶は四国巡礼したことがあるという。
いわゆるお遍路さんだ。
『人を見るときまず目を見る人は多いと思います。』
『何故でしょうか?』
『目を見ればその人の人となりがわかるからでしょうか?』
『ですが、目を見るのはあまりおすすめしません。』
『なぜなら、目は偽ることができるからです。』
『目は口ほどに物を言う、とは言いますが、目は口ほどでしかないとも言えます。つまり、いくらでも嘘をつくことができるのです。』
『では、どこを見ればその人の人となりがわかるのでしょうか?』
『答えを言いましょう。』
『それは、相手の心の目を見るのです。』
『つまり、『心眼』とでも言いましょうか。』
心の目?そう言われても私はピンとこなかった。
一体どうやって心の目を見るというのだろう?
『心眼を見るのは簡単です。その人の全体を見ればよいのです。』
『どこか一部だけを見ようとするのではなく、ぼんやり全体を眺めるだけでいいのです。薄目で見てもいいくらいです。』
『そうすると、不思議とその人の持っている雰囲気がなんとなく浮かび上がってきます。』
『それは赤みがかっていたり、青かったり、あるいはふわふわしていたり、固かったり、強かったり、弱かったりするかもしれません。』
『それが、その人の心眼です。』
『その人本来の姿と言ってもいいかもしれません。』
『目を見るより、より深くその人を見ることができるでしょう。』
ようは心眼とは形あるものではなく、なんとなく感じ取れるその人の雰囲気のようなもの、ということだろうか。
私は試しにそのお坊さんの心眼を見てみようとした。
えーと、どうするんだっけ?
あ、そっか、薄目、薄目、、
私は目を細めた。
きっと私は今、慈愛に満ちた仏のような目をしていることだろう。
そうすると、なんとなくお坊さんの持っている雰囲気のようなものが見えて来た気がした。
そして、なぜか四国巡礼のお遍路さんの姿が思い浮かんだ。
そうか、きっとその時の経験がこのお坊さんの雰囲気を作っているのだろうと思った。
なるほど、これは面白い。
人を見る目を養えるかもしれない。
そして、ふと思った。
私ってどんな心眼をしているんだろう。
自分自身の心眼を見ることはできるのだろうか?
私は鏡を取り出し、自分を見てみた。
自分の心眼を見ようと試みた。
えーと、薄目、薄目、、
仏のような目をしていた。
こうして見ると穏やかそうな目をしているじゃないか、私。
悪くない。
ああ、世界中の人たちがこんな目で暮らせたらいいのにな…。
争い事や、傷つけ合うことなく、こんな目で…。
仏のような目をしながらそんなことを思った。
たかだか、まだ十数年しか生きていないこんな小娘が思うのもおこがましいのだが。
肝心の私の心眼は、まだあやふやでよくわからなかった。
まだ未完成な私の心眼。
私はどうありたいのだろう?
こうありたいと思う姿を思い描いた。
自分のありのままで…なおかつ穏やかに、澄み渡り…。
山の奥深くの水流のように、透き通った…。
いつか、そんな心眼を持てるようになりたいと、
今はまだ仏の目をしながら思ったのだった。
『澄んだ瞳』 完