遅れました。なう(2024/11/25 23:09:43)
▶24.「セーター」
23.「落ちていく」
22.「夫婦」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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消えた。
「やべっ」
慌てて駆け寄ろうとして、自分まで落ちるわけには行かないと我に返る。
ゆっくり歩みを進めると、✕✕✕が消えた位置に落ちたと思われる草の隙間が見つかった。草を全てどけるとタライ程の大きさの穴があった。
「おいっ!大丈夫か!」
何度か呼びかけるも返事がない。
やってしまった。自分が油断したせいだ。
「えー…とりあえず灯りだ」
激しい罪悪感は無理やり脇に置き、やるべきことをやっていく。
まずは穴の深さを調べる。場合によっては人を呼びに行かなければ。
火を起こし、紐付きの器に固定された背の低い蝋燭を灯す。
じりじりと穴の縁まで近づき、ゆっくり中へ下ろしていく。
「まぁまぁあるが…」
蝋燭が穴の底に近づき、倒れた✕✕✕がうっすら見えてきた。
気絶しているのだろうか。
「ありゃ足が折れてるな」
旅はもう無理か?
頭に向かって灯りを動かしていく。足以外に大きな怪我は見当たらない。
呼吸の有無はよく分からなかった。降りてみないと無理だろう。
幸い、持っている綱で届きそうだ。
穴の全容が確認できたところで、
灯りを穴の底につけ、紐は木に結えつけるた。
降下と引き上げに使う太い綱の端を近くの木と体にそれぞれ縛り付ける。
「よし、全部できてるな」
強度を再確認してから降下を始める。
ゆっくり綱の長さを調整しながら降りていく。
しばらくして底に足が着いた。✕✕✕を踏まないように着地する。
「おい、✕✕✕!✕✕✕!」
呼び掛けに反応しない。
「息しててくれよ…」
口元に手を当てるが風を感じない。
「嘘だろ、おい!」
とにかく足を固定して早く引き上げなければ。
彼の外套をめくると着ていたのは秋物のセーターだった。
「毛糸じゃ固定に使えねぇな」
セーターをさっさとナイフで裂いてめくると木綿のシャツがでてきたので、これを包帯にすることに決めた。ナイフで慎重に切れ目を入れて残りは手で裂いて取り出し、さらに細長くする。即席の包帯で足を縛り上げ固定する。
(助ける、とにかくそれだけだ)
行きよりも時間はかかったが、彼を背負い穴から脱出できた。
「はぁ、はぁ…✕✕✕!おい!起きろ!起きてくれ!」
ダメ元で思いっきり頬を叩いて気付けを試みる。
「うおっ」
彼の目がいきなり大きく開き、思わず仰け反った。
「…あなたは…シブ…」
「生きてたか!悪い、穴のこともだが、セーターをダメにしちまった」
遅くなりました。なう(2024/11/25 18:20:22)
▶23.「落ちていく」
22.「夫婦」
21.「どうすればいいの?」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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「着いたぞ」
人の手が多く入った浅い部分から植生が変わり、木々が鬱蒼と茂って少し暗くなっている。
「森の奥は人が来ねえから木も草も生え放題。すると日当たりが悪くなって、日陰好きな薬草が多くなるって寸法だ」
これだ、と指を差した先にあったのは、濃緑色の細長い葉。
「このスウィゴの木の下に生えていることが多い。とってみろ」
草を掻き分け、根元より少し上から千切りとる。
「清涼感のある香りがするな」
「そうだ。その匂いが抜けたら古い証拠だから気をつけろよ」
了承の返事をしつつ袋に入れる。
「よし、次は…あんたの名前を聞いてなかったな」
「✕✕✕だ」
「俺はシブだ。✕✕✕、次は自分で探してみろ」
「わかった」
人形は、まず先にスウィゴの木を観察して特徴を覚え、それから辺りを見回す。目的の木は少し離れたところにあった。
時々目印をつけつつ歩き、採取する。その繰り返し。
「あ、この辺は草に紛れて大穴が開いてることがあるから気をつけ-
忠告は一歩遅く
人形は大穴を踏み抜き、落ちていった。
遅くなりました。なう(2024/11/25 02:22:27)
▶22.「夫婦」
21.「どうすればいいの?」
20.「宝物」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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仕入れ屋との道すがら。
森の浅い部分は人の立ち入りが多く獣の類も少ない。
✕✕✕は、まだ話す時間はあると判断した。
「聞いてもいいだろうか」
「おう、なんだ」
「どうして薬草の場所を教えてくれるんだ」
「そんなことか。まぁ暇つぶしにはちょうどいいな」
仕事で言えば棲み分けできるからだ。俺の専門は食材で、しかもこれから行く所よりもっとやべえ場所に生えてるもんだ。だからあんたに教えても平気なんだよ。
俺の事情から言えば、俺には妻がいるんだがよ。
昔に高熱を出したことがあってな。
この辺の浅い場所に生えてる解熱の薬草じゃ効かなかったんだ。
薬師に連れてったら熱が下がらなきゃどうにもならねぇで死ぬって言われてよ。
今回の薬草は、その薬師から教わったんだ。森の深い所に生えるやつなら治るってよ。ただ取りに行くやつが少ねぇんだ。あんときは俺が取ってきた。
俺はあいつが死ぬのは嫌だった。
んで、そんなやつは他にもいるだろ?
だから薬草を取りに行けるやつが増えれば、困るやつが減る。
そういうこった。
「そうだったのか」
この国の人間の平均寿命は50〜60歳、
15歳で成人し3〜5人ほどの子供を持つ。
種の保存という観点から見れば、子が独立したあとまで夫婦が一緒にいる必要はないはずだ。
人形には、何故わざわざ夫婦という縛りを作ってまで他人と一緒に居ようとするのか分からなかった。
だが仕入れ屋の話から、添い遂げる相手というものが大切な存在なのだと✕✕✕は感じ取った。
もちろん1人の話から判断するのは早計だし、
何事にも例外はあるだろうが。
「あなたの奥方は、どんな人なんだ」
人形は、時間の許す限り夫婦について知ろうと話を聞き続けた。
遅くなりました。
▶21.「どうすればいいの?」
20.「宝物」
19.「キャンドル」の値段
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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とある早朝、人形は酒屋の前に来ていた。
以前、ここでスリル大好き秘境珍味専門の仕入れ屋から情報収集した。
その時に、主な収入源である薬草採取で幅を持たせたいがどうすればいいのか相談をした所、
少し難易度が高いが実入りのいい薬草を教えてくれると言うので待ち合わせしているのである。
「おう!待たせたな!」
「今日はよろしく頼む」
「ああ。よし、行くか。言っとくが歩くぞ」
「問題ない」
「そう来なくちゃな」
初めて組む相手である。良好な関係を築くにはどうすればいいのか、
✕✕✕はつぶさに観察しながら、仕入れ屋について歩き始めた。
遅くなりました。
▶20.「宝物」
19.「キャンドル」の値段
18.「たくさんの想い出」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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人形は宿屋の受付にいた娘から蝋燭を買い、部屋に戻ってきた。
日は傾いてきているが、
完全に沈むには、あと少しだけ時間がある。
蝋燭を机に置き、✕✕✕は部屋についている水場に向かった。
この国は水源が豊富で、安い宿屋でも身を清める程度の水は料金内に入っている。タンクに付けられたコックを動かし桶に水を出す。
濡らした布を使って体を拭いていく。人形は体表面の代謝がないため短時間で終わった。
窓を見ると空は赤から紺へのグラデーションを描いている。
人形はそのまま、日が沈み暗くなっていく様子を眺めることにした。
この国は光源を専ら炎に頼っており、太陽と共に寝起きしている。
日没後2刻も経てば、大抵の住民は眠りについているだろう。
そうなれば人形は安全に自己修復機能が作動する休止形態に移行できる。
蝋燭は、それまでの繋ぎなのである。
日没を確認した✕✕✕は、蝋燭に火を灯した。
今までと異なり、ほんのりと甘い香りが部屋に漂う。
しかし炎の大きさや勢いには差がないようで、
人形が取り込むエネルギーも同様である。
✕✕✕は椅子に腰掛けて、蝋燭の炎を見つめる。
取り込めるエネルギーが変わらないなら、価格の安い方が良い。
決まりきった結論である。
しかし、この香りは宿屋の娘の✕✕✕に対する思いやりそのものだ。
(この宿にいる間は、この蝋燭にしよう)
香りがデータとして記録されていくのを感じながら、
人形は甘い香りの蝋燭を宝物と定めた。