2人で歩く歩道橋のさらに上には光輝く宝石で埋め尽くされていた。闇を隠すように溢れ出していた。私は幼馴染のゆーくんとこの下で話すのが好きだった。単にゆーくんが好きなのもあるけども私はロマンが大好きだった。八月の空に見える銀河の断面を川と比喩した人は本当に天才だと思う。この川は私にロマンを与えてくれるだからゆーくんと見るのが大好きだった。
ゆーくんは今も覚えてるかな?
私は忘れかけたロマンをこうして思い出す。研究漬けの毎日なのは自分で選んだ道だ。だからここで折れる訳には行かない。少しでも早くに会いたくて私は今日も道具研究を続ける。
「時を越えて私のロマンを取り戻す。」 私はこう誓った。
ゆーくんは優秀で周りの子から好かれていた。でもそれは仮初の姿。本当のゆーくんは私しか知らない。クールな表面に隠されているのは本当はふざけたい気持ち。誰もが羨む頭の良さはショートスリーパーな彼女が大量の自由時間を削って手に入れた成果ということ。ゆーくんの努力を小学生の時から見てきている私はゆーくんを羨む人を心底軽蔑した。でも、ゆーくんは優しいからフェイクの笑みを振りまく。そんな心をすり減らしているゆーくんを支えたくてずっと一緒にいて本心を聞いたりしていた。でも、最大の悩みは解決などしようがない。
ある日、いつもの歩道橋で突然ゆーくんが立ち止まった。
「空、綺麗だね。」
「うん! 私はね月もいいけどその奥のマイナーな星が見えるようになるってロマン溢れるしょ? だから好きなんだよな〜」
「ふふっ、しょーちゃんはロマン好きだね。」
「だって星と書いて「しょう」だもん!」
「幽九って名前もかっこいいよ!」
「でも…」と言いかける彼女の言葉を遮って言った。
「可愛くなりたいんでしょ?」
「うん。」
彼女はボーイッシュな見た目と名前にとても苦しんでいた。「女の子なのに……」というどうしようも無い問題を彼女は抱えていた。これは子供だからこそより精神的に来る辛さなのは私にも想像できた。周りは肯定どころか今の彼女を肯定する。
「ずっと隣にいて」
この言葉でプロポーズが成功し、現在嫁をもらっている。僕は未だにこのワードをチョイスしたことを誇りに思う。
彼女はネグレクトの家庭で育ったという。生まれてから愛を一度たりとも感じたことなど無かった。だから人との距離を測れずに家に限らず学校でさえ独りぼっちだった。その1人の時間を埋めるように放課後に読書をして過ごしていたらしい。
僕が中学校3年生の夏、僕は本に興味を持った。たまたま書店で手に取った本がとても面白くて何度も何度も読み返した。他の本を読みたいと思ったが僕は本のことなど一切わからない。オススメの本を聞くだけなのに僕には誰も話しかけられる人がいなかった。
ある日、図書室が開きっぱなしになっていることに気づいた。
「あれ? なんで閉まってないのかな?」
そして見つけた。オススメの本を知りたかった僕は初対面にも関わらず話しかけた。
「オススメの本ってある? 僕、本を読みたいんだけど何読めばいいかわからなくて…。」
これが彼女との出会いだった。
最初はただ1人が可哀想だから一緒にいただけだった。なのにいつのまにか一緒にいるのが楽しくて仕方なかった。僕は次第に彼女の孤独を埋めるようにずっと隣にいた。
彼女の過去を知ったからこそ僕が一緒にいたいとより強く想うようになった。だからこの言葉を僕は選んだ。
「ずっと隣にいて」
もしも去年にタイムリープできたならば奇跡の今を再現出来ないだろう。それほどまでに今の自分があるのは奇跡だと思う。
・まさか彼女ができるなんて……。
・親友とは縁を切ったなんて。
・そしてゲーム友達ができたなんて。
想像もできない世界に変わっていた。盛者必衰の理をあらわす。言葉通り心栄えた時間と仲間でさえもいつか終わりを迎える。しかし思った。
ーーー〜逆もあるのでは?〜ーーー
それでも傷が言えた訳では無い。古傷は抱えて生きていこう。未来のために僕は歩き出した。
「しゅうとだよ。これからも頑張るね!」
亡き恋人の唯一の形見だ。破れたりしてもまた縫い直して使い続けている。そもそもそんなに破けない。そんな鮮やかなピンク色の手袋を毎年使っている。
手袋を履くと彼女との日々を思い出す。お互いお金が無かったのにお揃いの物が欲しかった。すると彼女がある提案をした。
「手袋を1つ買ってお互いに片方ずつ持つとか?」
正直狂った提案だと思ってしまった。それだと片方が冷たいだけでは無いのか? しかし、よく考えてみると空いた手は繋げばいい。そう思って2人で買った。
真冬の寒い日のデートに2人で手を繋いで帰ったあの時。生涯忘れることは無い一時の1つだ。
社会人となった僕は今も形見の手袋を使っている。帰社する時にはいつも手にピンク色を身に付けている。ピンクは目立つから好きだ。いじめられた学生時代、僕を救ってくれたのは彼女とピンク色の□□□□だった。
「今日も寒いなぁ〜」
虚しい独り言が雪に溶けて消える。きっと溶けるのは彼女が聞いているからなのだろう。
「今日も仕事お疲れ様!自分!」
<私が人生で1度は書いてみたかったあとがき>
皆さんは□□□□にどんな言葉が入りますか? 僕はピンク色のTシャツを着てからいじめを気にしなくなりました。明るくなれたのはピンクTシャツのおかげなので今では週3で着用しています。僕はまだ中学生ですか皆さんもお仕事や勉学を頑張ってください!応援してます!
変わらないものはない、絶対だ。
この一文でさえ矛盾しているのはおかしいだろうか?絶対とは何においても必ずという意味である。不変の必ず。クラスメイトたちは納得し確かに、と呟く者もいた。矛盾を子供に押し付けて困惑させる。数学のように複雑にしているだけではないか。
僕は学校が嫌いだ。それはいじめでも勉強嫌いでもない。ただただ人と関わると裏切られるからだ。修学旅行で友達を失った。自分は好きでも相手からは裏切られる。相手は友達が沢山だから切り捨てることに問題は無い。嫌な世界だ。
「しゅうとー。起きなさい。学校行くんでしょ?」
今日も今日とて生ぬるい地獄がやってくる。中途半端な温度が最も気持ち悪い。そして何かが吹っ切れたのを皮切りに学校は向かう…。その足取りは重かった。囚人がつけてそうな足枷をつけているかと思った。
足枷は重力に縛りているんだ。だから自由落下はなんの苦でもない。今まで抱えてきた友だった者に対する憎しみ、彼女への愛情。全ての重みから開放されるんだ。
ーーー〜ー
「しゅうと……。なんで飛び降りなんて……。」
彼女の思いだけは変わらなかったみたいだった。この行動はもう取り返せない。変わらない事実だった。