短編小説 しらたま

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「ずっと隣にいて」
この言葉でプロポーズが成功し、現在嫁をもらっている。僕は未だにこのワードをチョイスしたことを誇りに思う。
彼女はネグレクトの家庭で育ったという。生まれてから愛を一度たりとも感じたことなど無かった。だから人との距離を測れずに家に限らず学校でさえ独りぼっちだった。その1人の時間を埋めるように放課後に読書をして過ごしていたらしい。
僕が中学校3年生の夏、僕は本に興味を持った。たまたま書店で手に取った本がとても面白くて何度も何度も読み返した。他の本を読みたいと思ったが僕は本のことなど一切わからない。オススメの本を聞くだけなのに僕には誰も話しかけられる人がいなかった。
ある日、図書室が開きっぱなしになっていることに気づいた。
「あれ? なんで閉まってないのかな?」
そして見つけた。オススメの本を知りたかった僕は初対面にも関わらず話しかけた。
「オススメの本ってある? 僕、本を読みたいんだけど何読めばいいかわからなくて…。」

これが彼女との出会いだった。

最初はただ1人が可哀想だから一緒にいただけだった。なのにいつのまにか一緒にいるのが楽しくて仕方なかった。僕は次第に彼女の孤独を埋めるようにずっと隣にいた。

彼女の過去を知ったからこそ僕が一緒にいたいとより強く想うようになった。だからこの言葉を僕は選んだ。
「ずっと隣にいて」

3/14/2024, 7:02:33 AM