ココロ
「ココロって必要ですか?」
授業中の教室で声が響いた。先生はモニターから生徒に視線を移す。生徒は五人しかいなかった。
「必要です」
「なぜですか?」
「他人を思いやることができるからです」
「思いやるって……争いを招くの間違いでは?」
生徒の言葉に先生はしばし黙った。言葉を選んでいるようだった。
「確かにココロがあるために争いが起きていることも事実です。けど、ココロなきニンゲンなど、ただのロボットです」
ロボットの先生はロボットの生徒たちにそう話した。
星に願って
流れ星に願いごとを三回言うと願いが叶う。
クラスメイトのユキちゃんが言っていた。だから夜にこっそりと家を抜け出して丘の上の公園に来た。小学生には厳しい坂道だった。だから公園に着いたとき、泣きそうだった。けど、それも一瞬で終わった。そこから見えた景色がとても素晴らしかったから。街が一望でき、とても空が近かった。私は寒いなか、星を探す。どれくらいが経っただろう。たくさんの流れ星が降り注いだ。
「妹消えろ妹消えろ妹消えろ」
再婚相手の子である妹消えろ。
私より可愛がられる妹消えろ。
私の居場所を奪った妹消えろ。
消えろ、消えろ、消えろ。
星に願って、星に願った。
君の背中
月曜から金曜日の毎朝七時五十二分。
いつもの駅から君は電車に乗り込む。
ギターかベースのケースをかかえて。
今日も学校に行って弾くのかなって。
私はそんな君を見て、何も言わずに。
君の目の前に座って、心で応援して。
君が電車を降りるまで、見つめてる。
案内が響いて、降りる準備を始めて。
ケースを背負う君の背中を見送った。
いつか、いつか、君の大きな背中に。
私のすべてを取り憑ける日を夢見て。
幽霊の私は今日も電車に揺られてる。
誰も知らない秘密
僕の秘密?
しかも誰も知らない秘密を知りたいって?
そんなの、教えてあげるわけないじゃん。
たとえば僕が底辺配信者だとか。
ミステリー作家を目指してるとか。
そんなの絶対、教えないよ。
秘密っていうのは、秘密だからいいんだよ。
静かな夜明け
静かな夜明けだった。
音も明かりも消え、地球上から生物が消えたかのようだった。昇ってくる太陽を見ながら、今日も一日が始まるのだと思った。
「構え」
足元から声がした。寝ている間に、囲まれていたらしい。見たことのない車がたくさんあった。
「撃てー!!」
その瞬間、体の腕や足に何かが当たる。煙が視界を塞ぎ、思わず咳き込む。不思議と痛みはなかった。
煙から逃れるように立ち上がる。たくさんの悲鳴が聞こえたが、気にしない。体を伸ばすと気持ちが良かった。
自分は怪獣。人類の敵、らしい。
ただ平穏に過ごしたい、だけなのに。