明日に向かって歩く、でも
歩く。
ひたすら歩く。
明日に向かって歩く、でも。
この先に、未来は無い。
だって世界にはゾンビが蔓延っているから。
……生き残っている生物はもういないだろう。
人間も犬も猫も鳥も。
すべてゾンビになってしまった。
意思疎通のできない、化け物になってしまった。
僕もそう。
ゾンビになった。
学校に侵入してきたゾンビに呆気なく噛まれて。
なのに、僕は僕のままだった。
彷徨うことはしないし、人間も襲わない。
意識もはっきりしている。
ゾンビじゃないわけではない。
肉体は確実に腐っている。
どこに向かって、何を成すべきか。
分からない。
だから、歩く。
この先にある、明日を信じて。
ただひとりの君へ
このメッセージは一人分の電波を受信したときにだけ再生される。
おめでとう。
宇宙船に残された、ただひとりの君へ。
わかっていると思うが、もう元の生活には戻れない。
やるべきことがあるからね。
とはいえ、そこまで大変じゃない。
自分の世界のために、数多の世界代表を殺すことに比べたら、ね。
君はただ神と呼ばれる監視者になるだけさ。
世界を守るために他を犠牲にしたのなら。
くれぐれも壊さぬように。
透明な涙
「透明な涙なんて、不思議だね。だからこそ、採取の必要性がある」
タコの形をした自称、宇宙人は言った。見た目に反して、とても低い声だった。
「体内を流れる液体は赤いのに、どうして涙はこんなにも」
私の体は手術台のようなものに縛られていた。いつものように涙でこの場を乗り切ろうとしたら、逆効果だったようだ。仕方がないので、隠し持っていたナイフで体を固定していた紐状のモノを切った。そして、躊躇わず宇宙人を刺す。
何度も何度も刺して、刺した。致命傷がどこかなんてわからなかったから。動かなくなってからやっと、私は一息ついた。
「あんたの涙は青いのね」
あなたのもとへ
「どんなものでもお届けします」
そんな貼り紙を見て、私はすぐに書かれた住所に向かった。二階建ての小さな建物だった。ドアを開けると、カランとベルの音が鳴った。中は想像したよりもずっと狭かった。大きめのダンボールを二つも置けば、歩くところがなくなってしまうほどだった。
「いらっしゃい、どんなものでもお届けします」
満面の笑みを浮かべて男は言った。
「本当に、どんなものでも届けてくれるの?」
「ええ」
「住所がわからなくても?」
「お任せください」
「……いくらでもいい、これを」
私は手に持っていたくしゃくしゃになった紙を男の前に置いた。離婚届だった。結婚生活五年目にて突然消えたあなたのもとへ。私はもう待つのに疲れました。さようなら。
もうあなたとは他人になりたい。
そっと
そっとしておいてください
彼はお気に入りのイヤホンを無くして凹んでいます
そっとしておいてください
彼は推していたアイドルに恋人がいて怒っています
そっとしておいてください
彼は飼っていた猫が死んで悲しんでいます
そっとしておいてください
彼は両親が亡くなって傷付いています
そっとしておいてください
そっとしておいてください
そっとしておいてください
そっと……
「お前になにが分かるの?」
彼は言うと、家政婦型ロボである私を、壊して。