人の姿

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1/21/2024, 9:22:36 AM

海の底へ沈むにつれて静けさは増していく。
はるか上空にあるように見える水面とそれまでの景色、雑音のない静けさがこれ以上ない心地良さをもたらす。
心地よい、ずっとここにいていたいと心から思う。
だがやがて肺から酸素がなくなりたちまち全身を苦しさが襲う。周りに広がる景色は相変わらず美しいし、煩わしいノイズも存在しない。
だが苦しい。
そしていつか私は溺れ死ぬ。

私にとって心地良さとは苦しさだ。
そしてこの心地良さをずっと享受し続けること、それは死を意味する。

1/19/2024, 10:36:49 AM

「君に会いたい。」
そんな声が頭上から降り注ぐ。
「君に会いたい。今すぐにでも。」
見上げた先のマンションのベランダからは一人の男が顔を覗かせていた。

羨ましい光景だと思う。
そんな一本の電話で会えるなんて羨ましい。
「もう踏ん切りは着いたつもりだったんだけどな。」
思わず口から漏れる。

人間というのは永遠の生き物では無い。
私たちは想像以上に脆い。
いつ崩れるかも分からない毎日を生きている。だが、少なくとも彼らは今生きている。
共に語り、目を合わせ、想い合うことが出来ている。それはどんなに幸せなことだろうか。

いくら彼女に連絡をしようとしても、私の元にかえってくることはない、返事も彼女自身も。いや、かえってくるという言い方は語弊があるかもしれないが。

とにかく彼らには今を大切に生きて欲しい。愛し合える時間は永遠では無い。顔を合わせられる時間も永遠では無い。そんなことを思いつつ私はひたすらに帰路を歩く。


この世界に生まれてきてはや四十五年、彼女が出来たことは無い。
生涯独身を貫こうと決めたはずったのに、少し迷いが生まれてしまったみたいだ。

1/18/2024, 2:06:53 PM

閉ざされている、という程でもないが最後に開いたのがいつかも分からない小さな日記帳が部屋にある。
視界に入ることがあっても、開くことは無い。存在を思い出しても、内容を思い返すことはない、そんな代物。
三日間の継続すらも苦である私だが、三日坊主という不名誉な称号には些かの不満を抱いている。
私は過去を振り返ることが好きでは無いのだ。過去よりも未来を見たいと思うし、昨日よりも明日、それも超えて明後日の方向を向いている方が性に合っている。
つまり私が言いたいのは、私は決して現実から目を逸らし、継続という重要な能力の欠如をそのままにしているような怠惰な人間なのではなく、常に今、そして未来という現実に対し世界中の誰よりも真剣に、過去にわき目を振ることなく向き合っている人間であるということである。

1/17/2024, 10:56:09 AM

木枯らしの吹く晩秋、そんなものを経験した記憶は無い。
ほんしゅう?とやらでは春夏秋冬、四季折々の風が吹くという話を聞いたことがあるがそれは遠い異国の話。
我が祖国、蝦夷のクニではあつい夏の後にやってくるのは決まって冬である。
冬の到来を感じさせるまでもなく吹雪が吹き荒れるこのクニを私は案外気に入っている。

1/16/2024, 10:57:59 AM

そんなに美しい世界じゃない。
いつも通りの満員電車。
みんな憂鬱そうな顔をしている。
あるいは私の瞳がそんな風に世界を映しているのかも。

起きたくないなぁ
って朝目覚めて

早く終わんないかなぁ
って一日をすごして

ずっと寝てたいなぁ
って目をつぶる

知らない人達の口論も
知らない国の戦争も
あまりにも醜くて目を背ける。

たとえそんな世界だったとしても
臆病者の私は生きるしかない
明日、瞳に映る景色が
今日よりも少しだけ美しいことを祈って。

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