人の姿

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「君に会いたい。」
そんな声が頭上から降り注ぐ。
「君に会いたい。今すぐにでも。」
見上げた先のマンションのベランダからは一人の男が顔を覗かせていた。

羨ましい光景だと思う。
そんな一本の電話で会えるなんて羨ましい。
「もう踏ん切りは着いたつもりだったんだけどな。」
思わず口から漏れる。

人間というのは永遠の生き物では無い。
私たちは想像以上に脆い。
いつ崩れるかも分からない毎日を生きている。だが、少なくとも彼らは今生きている。
共に語り、目を合わせ、想い合うことが出来ている。それはどんなに幸せなことだろうか。

いくら彼女に連絡をしようとしても、私の元にかえってくることはない、返事も彼女自身も。いや、かえってくるという言い方は語弊があるかもしれないが。

とにかく彼らには今を大切に生きて欲しい。愛し合える時間は永遠では無い。顔を合わせられる時間も永遠では無い。そんなことを思いつつ私はひたすらに帰路を歩く。


この世界に生まれてきてはや四十五年、彼女が出来たことは無い。
生涯独身を貫こうと決めたはずったのに、少し迷いが生まれてしまったみたいだ。

1/19/2024, 10:36:49 AM