「…あ?」
ここは、何処だ。確か、さっき病院内を歩いていたはず。
それだというのに、多分ここは病床の上。
「なにこれ…」
気怠い体を起こして、周りを見渡す前に目に入ったのは、自分の腕に繋がれている沢山の点滴。
痛くはないけれど、点滴を繋がれた経験はないから驚いた。
「てか、ここ普通のとこじゃなくね…?」
驚くのもそこそこに、ようやく周りを見渡すと、そこは普通の病室ではなかった。集中治療室、ではないが、それなりに拘束具やベルトなどが置いてある部屋。
見れば見るほど恐ろしく、不気味でたまらない部屋だが、何故自分がここに寝かされているのか、不思議で仕方ない。
「あ!ようやく起きましたか」
ガチャ、という音を立てて部屋に入ってきたのは、長い髪の毛で片目を隠しているターコイズブルーの目をした男。
こいつも不気味で気持ちが悪い。
「お前、誰」
警戒心マックスでそう告げると、男は持っていたカルテを近くの机に置いて、隣に置かれていた注射器らしきものを手に取った。
「まあまあ、そんなに警戒しなくても、危害は加えませんよ」
「ここに拘束してる時点で、お前危害加えてるようなものだろうが」
「…それもそうですか」
キラキラと輝かせていた男は、一瞬で目の輝きを消した。
そして、そのまま近づいてきて、点滴袋にそれを刺した。
「…頑張りましょうね」
「クソが…」
あぁ、次目覚めるのは夜明けになるのかな。
前回に比べると重さが段違いなので注意。
「お前は、もう違う」
そんなことを言われて、困ったのは俺だった。
久しぶりに会えて、嬉しくて、また一緒にいれると思ったんだけど。
オマエは、そうじゃなかったみたい。
いや、オマエがそうじゃなかったんじゃなくて、俺がそうさせたんだろーな。
あの日、珍しくイラついてて。
平和主義なことを長所にしている俺が、オマエにいろいろなことをいった。例えば、面倒臭い、とか。もういい、とか。
その時のオマエの傷ついた顔は、今でも頭から離れないよ。
でも、あれはオマエが嫌いになった訳じゃなくて、このままでいたら、俺たちきっと何もできないと思ったから。今思うと、それでも俺は怒っていたのかもしれない。
その後、気付いたんだ。オマエが俺に言われた時の衝撃が、ようやくわかったような気がした。
俺、オマエに非道いこと言ったなって。
謝らなきゃ、伝えなきゃって。
ずっとそう思ってて、でもそうするためには、まず俺が強くならないといけなくて。
だから、まだオマエとはあえない。そう思ったんだよね。
毎日同じことの繰り返し。つまんないことしかしてなかった俺に、希望をくれたのはオマエだよ。オマエは、俺にとって全てだ。オマエがいないなんて、意味ないよ。ふとした瞬間に、「オマエは何してるんだろう」とか、「元気にしてるのかな」「また会ったら何しようかな」とか。そんなことしか考えてなかったんだよ。
ねえ、だからそんな顔しないで。
俺、オマエがいないとだめだよ。
なんでもするから、隣においてよ。
おねがい
「どんだけ離れたって、俺ら一緒だよ」
そんなことを言っていたアイツは、すぐに俺から離れていってしまった。約束してきたのはそっちだったのに。
アイツの言葉通り、いつかはまた一緒になれるかもしれないと思っていた。だから、待っていた。
それは、ただの俺の願望でしかなかった。
アイツは、もう他の奴といる。もう俺のところへは戻ってこない。おれの隣には、もうアイツはいない。
アイツには、届かない。
別れ際、アイツは怒っていた。想像以上に非道いことを言われたし、もういい、めんどくさいとも言われた。
散々そんなことを言われたのに、まだ戻ってくるかもなんて馬鹿なことを思っていた俺が哀れすぎて、笑えてくる。
それでもやっぱり諦めきれなくて、努力して強くなった。
人間としても、強くなれた。
久しぶりにアイツの前に立った。
アイツは何も変わっていなくて、変に安心をした。
当のアイツは、何にも興味がなさそうにして俺に関心をなさない。やっぱり、アイツはもう俺のことをどうでもいいと思っているらしい。まあ、会った瞬間からそう思っていたのを、おれが知らないフリをしていただけか。
「…もう、いいか」
そろそろ、俺も諦めどころだ。
これ以上固執していたって、どうにもならない。
無駄な時間だ。アイツはもう俺を忘れて前を向いているのに、俺はまだアイツを忘れられない。
そんなのは、不公平だ。
だったら、俺も忘れてやる。
もう、俺の人生にアイツはいらない。
俺の隣に、アイツはいらないんだ。
「誰?」
「…会ったことないはずだよ」
「だよね。俺、君のこと覚えてないもん」
「会ったことないんだから、覚えてるも何もだろ」
「…ぁあ、確かにね」
「うん。…行かなくていいのか」
「…?どこに」
「ん」
「…、なにあれ」
「わからん」
「知らないのかよ」
「そりゃそうでしょ、俺だってここ来たの初めて」
「あ、そうなの?」
「うん」
「じゃー、仕方ないか。…きみは?きみは、いかないの」
「…俺は行けないんだ」
「?なんで」
「…いいから。早く行けよ」
「そんな急かさないでよ」
「早く行かないと、戻れなくなるぞ」
「?なにいって」
「早く行けって」
「うぉっ!?押すなし!」
「…うるさい、お前が悪い」
「なんで、だよ!もー、!」
「…またね」
「またねっ!!?」
「…はー、辛」
「影絵ってなに」
「しらん」
「え、誘ってきてたのそっちだよね」
「調べてみないとわからんだろ」
「自由すぎん?」
「うるさい黙れ」
「メンタル不安定ですか」