―いつまでも変わらず、永遠に
 それがどれほど苦しいものか理解していなかった。ただ失いたくない一心で交わした約束を私だけは忘れない。
一途な想いも、熱心な信仰も、従順な心身も、何もかも報われない。あなたを失ってしまったら、もう、何の意味もなさない。
 言葉遊びを知った。たまたま見かけた短歌か、キャッチコピーか。それが私が一方的に守ってきた約束と重なって居心地の悪い現実を目に焼き付けられたような気になった。
 いつまでも、の『も』を消してみて
―いつまで変わらず、永遠に
 呪いの言葉の出来上がり。
 逃がれられない呪縛を私だけが背負う。
 その時をずっと待っていたんだね。
 永遠なんてなくなってしまえ
               【題:タイミング】
 たった一欠片の愛は、決して少なくはない
 似合うね、と言うから私はその色が好きになった。あなたが纏う鮮烈な赤はいつだって私の真ん中にある。視線を逸らしても、顔を背けても、視界の端にずっと残ったまま離れない。端にあると思っていても気づけば真ん中にあってこれはもう重症だと認めざるを得なかった。
 似合わない色だった。でも私の中に流れるものと同じ色だと気がついたのは本当に偶然だった。とてつもない奇跡が起きたような心地がして嬉しくて嬉しくてそればかり考えていた。遠く離れて会えなくなったとしてもこの身体がある限り思い出せる。
 心臓を貫いたのは、あなたでも私でもない。
事故といえば事故、必然といえば必然の出来事だった。ボタボタと重たい音を立てて床に落ちる赤を、必死に留めようと大きな手が塞ぐ。痛みでまともに喋れもしない私に、仄暗く周りの光を一点に集めたように輝く目が許しを乞うてくる。でも必要なのは私の言葉でも許しでもない。自己満足でしかないと、私の意に反すると、全部分かった上で無視をすると宣言した。
「…恨んでくれて、いいよ」
 あなたは酷い。そしてずるい。
私が置いていくのは許さないのに、私を置いていくのは躊躇わない。ドクン、ドクン、と脈打つ音がやけに大きく、そしてゆっくりと間隔を広げて。最後にその音を聴いたのはどれくらい前だっただろう。
 目を覚ますとあなたはいない。激しい痛みを残して、この命を縛りつけて、どこかにいってしまった。穴が空いていた場所にポツリと花が咲いている。赤く小さく鮮烈に。
 最初で最後の愛だと、誰かがそう表現した。その言葉に救われはしないが一筋の光のように感じた。神々しく光り輝くものではなく、あなたと私を繋ぐ管が細く長く続いて血潮が行き来を繰り返す。そんな生々しいものが愛なのだ。
 いつか、きっと、この心臓が止まるそのときにあなたの元へ行けるのでしょうか。そうであったらいいと願わずにはいられない。こんな世界を1人彷徨わせるのならオアシスの1つくらい用意してくれてもいいでしょう。夢と、希望と、あなたへの想い。私の旅はそれだけのために続いている。
                【題:オアシス】
 あのとき、その手を離さないでと懇願したい
 あの日も暑かった、と思う。季節なんてどうでもよかったし、暑かろうが寒かろうが結末に支障はない。地に着けた足から力が抜けて這いつくばるときに熱いか冷たいかの差だ。
 ジッとレンズの奥の目をみて逸らさない。今も昔もその辺の覚悟は変わらないから笑える。痛いのは初めだけ、段々と苦しさに変わって、ジワジワと滲むような痺れが苦しみすら消していく。ドキドキした。歓喜と安堵できっと笑っていたと自分では思っている。
唐突に手が離されて、呼吸をする苦しさと激しく巡る血流が気持ち悪い。
「反抗しろよ」
 そう言って去っていく背中を見送ることしかできなかった。力のない私と人を殺す覚悟のない小心者。
 もし、その場に居合わせることができるなら、
幼い私の首をもう一度両手で包んで、困惑した表情をしながらも無抵抗に死を受け入れる私に、おめでとう、と言ってあげる。羨ましく妬ましい最高のプレゼントを私の手で私に贈る。このときにはもう狂ってしまって戻れない私に未来で浴びる暴言暴力から身を守る首輪をあげる。
 いつも、いつだって、その身にふさわしいものを思い出してね。このまま死んでくれれば私も死ねるから。
 ねえ、偽善は楽しかった?
 手をかけてもらえることがそんなに嬉しい?
 与えられるものを素直に受け取れて偉いね
 生まれなければこんな思いをしなくてよかったのにね
 アンハッピーバースデー、私
         【題:もしも過去へと行けるなら】
 私のこの声が聴こえないというのなら、何度だって声が枯れるまで繰り返し伝えましょう。
 聴こえてはいるのに無視するのなら、もう二度と語りかけることはないでしょう。その覚悟をもって言葉と会話の重みを噛み締めてください。
 優しさも、愛も、永遠ではないと学んでください。
 一度壊れたものは元には戻らない。
 覆水盆に返らず、のような言葉が生まれるほど先人がその経験と後悔と色々な思いを込めて今世まで語り継がれているのです。
 まだ分かりませんか。
 ならばもう私からあなたに伝えられることはありません。
 またいつかどこかで出会ったときは、そのときはもう私たちは何の関係もない他人です。むしろ道でたまたますれ違った犯罪者のようだと私は認識することでしょう。
 それほどのことをしたと、深く心に刻んでください。
 あなたに傷つく権利はありません。
 私を傷つけた罪をいつまでも背負って生きて、死んでください。
               【題:またいつか】
 ただ愛してほしかった、それだけだった。
 どんどん欲張りになって嫉妬して、でも妬むことはなかった。羨ましいとは思えなかったから。頭を撫でられ喜ぶ姿に馬鹿だなと思っていた。だって痛いことされてたくさん我慢したからそうしてもらえてる、少なくとも私の知っている世界ではそれが普通だから、毎日のほほんとしているのも全部我慢の上で成り立っていると信じて疑わなかった。
 でも違った、何もしなくても愛されてた。
 嘘つき、と思った。だったら私も嘘をつこう。そうすれば愛される、痛いのも我慢も嫌だからたくさん嘘をついてあげる。無意味なのは最初から気づいていたしもっと嫌われることも知っていた。それでも許される人たちをみて私もそうなれるはずだと信じて疑わなかった。
「素直だね」
 その言葉が気持ち悪いのに嬉しい。嘘ばかりの私をみて褒められるのは苦しいけど救いだった。だって本来の私だったら絶対にもらえない言葉だから。大切に大切にゴミ箱に捨てる。
 今?今ね。今は何してるんだろうね。
 疲れちゃったから、休もうかなって思ってるの。
 そうなの、だからまた今度誘ってね。
 また今度が、あったらね
 あ、間違えちゃった。
 また今度会おうね、だよ。
 そうだよ私が病むわけないじゃん。
 そうでしょ、ね?
 
              【題:今を生きる】