あのとき、その手を離さないでと懇願したい
あの日も暑かった、と思う。季節なんてどうでもよかったし、暑かろうが寒かろうが結末に支障はない。地に着けた足から力が抜けて這いつくばるときに熱いか冷たいかの差だ。
ジッとレンズの奥の目をみて逸らさない。今も昔もその辺の覚悟は変わらないから笑える。痛いのは初めだけ、段々と苦しさに変わって、ジワジワと滲むような痺れが苦しみすら消していく。ドキドキした。歓喜と安堵できっと笑っていたと自分では思っている。
唐突に手が離されて、呼吸をする苦しさと激しく巡る血流が気持ち悪い。
「反抗しろよ」
そう言って去っていく背中を見送ることしかできなかった。力のない私と人を殺す覚悟のない小心者。
もし、その場に居合わせることができるなら、
幼い私の首をもう一度両手で包んで、困惑した表情をしながらも無抵抗に死を受け入れる私に、おめでとう、と言ってあげる。羨ましく妬ましい最高のプレゼントを私の手で私に贈る。このときにはもう狂ってしまって戻れない私に未来で浴びる暴言暴力から身を守る首輪をあげる。
いつも、いつだって、その身にふさわしいものを思い出してね。このまま死んでくれれば私も死ねるから。
ねえ、偽善は楽しかった?
手をかけてもらえることがそんなに嬉しい?
与えられるものを素直に受け取れて偉いね
生まれなければこんな思いをしなくてよかったのにね
アンハッピーバースデー、私
【題:もしも過去へと行けるなら】
7/25/2025, 7:37:07 AM