シシー

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9/29/2024, 12:51:03 PM

  ―――あなたでよかった、あなたでよかったの

 これはたぶんトゥルーエンドなのかもしれない。この前はもっと悲惨だったし、その前はとても平和だった。
この光景もなかなかに悲惨ではあるが最小限の被害で済んだから結果オーライ。この物語にはみんなが幸せになれるルートは存在しない。誰を救うのか、切り捨てるのか、選択を迫られるのだ。

 この物語の主人公は母と娘の2人。生まれてすぐ攫われた娘を探し出すのが母の役目で、娘は攫った犯人と実母のどちらかを選ぶのが役目。信頼関係も家族としての情も何もかもがゼロかマイナスからはじまる。
1つの選択で、悪を滅ぼし大団円となるか、母娘で殺し合うか、周りを巻き込んで破滅するか。他にもあるけどどのエンディングも誰かの犠牲の上に成り立っている。
 今回は母が娘を殺し、必ず悪を滅ぼすことを決意するエンディングだった。血まみれの母娘と何も言えない周りの人、居心地の悪い静けさだけが部屋を満たしていた。

 ――そうだね、ヒロインはその娘でよかった
       だって、また私が殺されたら嫌だからね

「ごめんね、お姉ちゃん」

 代わりに死んでくれてありがとう、なんて言えないよ。



           【題:静寂に包まれた部屋】

9/18/2024, 3:53:26 PM

 彼女曰く、何も特別なことはないらしい。
俺らからしたら特別で、初めから全てを持っている人生イージーモードの主人公のようにしかみえない。それが幸せかどうかはわからないが恵まれていることに変わりはない。もちろん羨ましくはあるが、同時に憐れみも感じる。
本人が望んだわけでもないのに注目され期待を押しつけられる生き方なんて、俺はごめんだ。

「私はね、偶然っていう運命に選ばれただけなんだよ。そのときその場所にいてたまたま素養があっただけ。別に、私じゃなくてもよかったってこと」

 笑っているのに笑っていない。穏やかで、優しくて、どこか影のあるその表情は恐ろしかった。
生まれ持った才能に人生を狂わされているようで、選択肢なんてものは最初から存在せずそれこそ運命としか言いようがないほど真っ直ぐゴールへと繋がっている。そのゴールが彼女にとっての地獄であってもそこへしか進めない。

「私はあなたが羨ましい」

 眼下に広がる灯りの海を背に、彼女は笑う。泣いているようにもみえたからその頬に触れようと近づいた。手を伸ばせば届く距離だった。でも俺よりもはやく手を突き出した彼女のせいでもう二度と埋まらない距離ができてしまった。
人工の光の中に落ちていく彼女と地面に座りこんだままの俺。世間に必要とされる彼女との差が縮まって、また追いつけないほど深いところまで落ちていってしまった。

―――どうして、彼女だったんだ

                【題:夜景】

9/15/2024, 1:40:31 PM

「君から連絡をくれるなんて珍しいな」

 なんで、そんなに嬉しそうなんだろう。特別なことなんて何もないのにどうして。
そんなふうに笑わないでよ、ふにゃりと蕩けるような表情をされると落ち着かない。だから嫌なんだよ。私ばっかりこんな想いを募らせるなんてつらいから。

 こんなささいなことでそんなに喜ばないで。



            【題:君からのLINE】

9/13/2024, 9:05:51 AM

 これはもう、絶対に許してもらえない。
どれだけ言葉をつくしても、頭を下げても足りない。底のないバケツに水を注ぎ続けるように無意味で、時計の秒針がただ動き続けるのをわざわざ注視しないのと同じ。
何をいっても言い訳で、謝罪をすることは当たり前。
 だって、私が悪いから。

 でも1つだけ方法がある。これが効くのは彼相手だからで他の人になんてしようとも思わない。どんなに怒っていても決して私から目をそらさない彼にだから通じる。いや、通じてほしい。そうじゃないと泣いちゃう。

 彼の正面に立つ。きっと距離をとろうとするから逃げられないように首元に腕をまわす。力では勝てないから素早く近づくんだ。彼は驚いた顔をしているだろうけど私は必死だから気づかない。恥ずかしいくらい真っ赤になって今度は私が逃げるだろう。
 その後は、どうだろうか。やっぱり許してもらえないだろうか、それとも逃げることだけは許してくれるのか。
私はどうしようもなく彼に囚われていて、彼もそうであってほしいと思ってしまう。だめだ、やっぱり泣きそう。はやく許して。

 

               【題:本気の恋】

9/7/2024, 10:54:36 AM

 『またね』

 その言葉に安堵していた頃が懐かしい。楽しい時間が終わってしまう悲しさを曖昧な約束が癒やしてくれる。
こんなにも誰かと離れることを悲しむのは初めてだったんだ。

 『バイバイ』もしくは、『さよなら』

 あんなにも色鮮やかだった時間に嫌悪感を抱いた。些細なきっかけからヒビが入ってそれが埋められない溝となっていった。嫌いになったわけではない、でも、苦しくてしかたないんだ。
だからあの日、言葉をかえたのだ。


 あれから月日が経って色んなことが変わった。
一人取り残されて、決して多くはないだろう時間と向き合ったときふと思い出した。さよならを伝えた人や伝えられなかったけどさよならした人に会いたくなった。

 とても身勝手でわがままで、純粋な好奇心だ。

 どうなったかな、忘れられてしまったかな、怒っているだろうか、嫌われてしまっただろうな。
それでもいい。未練や後悔なんてないけれどまだ存在しているのか確認したい。ああ、本当に自分勝手で嫌なやつだな。こんなにも心躍るのは久しぶりなんだよ。楽しみ。



              【題:踊るように】

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