イライラする。
寝ても覚めても、立っても座っても横になっても、ずっと痛い。頭を金づちで殴られ続けるような痛みがずっとある。
座ってるときと顔を上げたときが特にひどくて吐き気が込み上げてくる。何度か吐いた。それからまともにご飯を食べてない。でも吐くものがない方が苦しくないからいい。
最初は気づかってくれていたけど、段々と嫌な顔をみせるようになって痛いということもその素振りも隠すことにした。
どうせ他人事だからね、仕方ないよね。
でもこんなに痛いのに吐きそうなのに嘘だと言われるのも思われるのもうんざりなの。大袈裟だって笑ってるのが腹立つ。
他の人にはどうでもいいよね。だったら嘘だとか言わなくてもいいでしょ。
痛いのは私で、苦しいのも私。
痛がってるのをみてるのは他人で、苦しんでるのをみてるのも他人。
必要だって言うから報告してるだけ。嘘だっていわれるなら報告したくもない。
イライラする。すごく痛い。誰にも会いたくない。
―― つまらないことでも
本当につまらないことだから誰が苦しんでいても笑っていられるんだよね。
イライラする。この痛みを言葉じゃなくて実際に感じてくれたらいいのに。
そうしたら嘘だなんていえないでしょ。
目が覚めたら、どんな頭痛にも効く薬があってほしい
原因のわからない最悪なこの痛みを消し去ってほしい
痛みから解放されたいよ
【題:目が覚めるまでに】
ボクがアナタにしてあげられること、その全てを完璧にしてみせる。アナタは特別な人だ。他の人ではその足下にも及ばない。そんなアナタを見つけ、側にいることができるボクは幸せ者だ。
光を失った虚ろな目。視線は合わないけれど確かにボクを見ている。ガラス玉のようにつるりとしていて綺麗だ。
また失うことはわかっている。これまでのようにボクは見送る側にしかなれない。
悲しいのに嬉しい。最期のときをボクとともに過ごしてくれた。そしてこれからは、その身が腐り、元の姿を失くし、白い欠片となるまで側にいてくれる。
―うっとりとした表情で泣く男とその腕の中で息絶える女
昔の猟奇殺人を題材にした映画だ。映画自体はあまり売れなかったが、主人公の男を演じた俳優はこの映画を機に爆発的に売れた。
ある記者が質問した『どうしたらあんな素晴らしい演技ができるのですか』に俳優は心底嬉しそうに笑って答えた。
その答えはただの冗談として流された。だが、察しのいい人ならきっと気づいただろう。ゾッとするくらい残酷な答えをあんな表情で、澄みきった瞳で、さも当然のように言えるものか。
役者で、演技だったとしても、気味が悪いったらない。
【題:澄んだ瞳】
骨髄穿刺痛い
今回3回目だったけど初めて号泣した
麻酔の効かない骨の中に針刺すのやめて
そもそも麻酔から痛いのは卑怯でしょ
だから病院が嫌いなんだよ
検査はもっと嫌い
【題:鳥かご】
わたしの担当は『青いバラ』だ。
ここは花を育てて出荷する場所。たくさんの検体がそれぞれの花を育てて、それをかご係の子どもが集めて出荷の準備をする。
検体というのは特定の花を身体に生やすことができる人造人間らしい。噂好きのユリがそう言っていた。
――人間の暮らす地上は荒れ果て、シェルター無しでは生きられない。どこもかしこも人工物だらけのシェルターに嫌気がさした我々は癒しを求め、昔の文献をもとに植物を復活させた。そうして復活したのがお前達だ――
仕事はわたし達の成り立ちを読み上げてからはじまる。
「お前は我々の自信作だ。植物が土に自生していた時代ですら難しかった花が蘇ったんだ」
最近できたばかりのわたしは、白い服を着た人間たちに囲まれながら仕事をする。花を1本1本検品し、身体の異常や疲労具合を調べられ、その都度調整が行われる。
まだわたししか担当がいないからすごく忙しい。はやく検体を増やしてほしいものだ。
それにしても、たった1本の花に何万何千万の大金を支払うなんて人間は変わってる。そんなに欲しいのなら身体から生やせばいいのに。変なの。
【題:花咲いて】