シシー

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7/31/2024, 2:10:22 AM

 ボクがアナタにしてあげられること、その全てを完璧にしてみせる。アナタは特別な人だ。他の人ではその足下にも及ばない。そんなアナタを見つけ、側にいることができるボクは幸せ者だ。

 光を失った虚ろな目。視線は合わないけれど確かにボクを見ている。ガラス玉のようにつるりとしていて綺麗だ。
また失うことはわかっている。これまでのようにボクは見送る側にしかなれない。
 悲しいのに嬉しい。最期のときをボクとともに過ごしてくれた。そしてこれからは、その身が腐り、元の姿を失くし、白い欠片となるまで側にいてくれる。

―うっとりとした表情で泣く男とその腕の中で息絶える女

 昔の猟奇殺人を題材にした映画だ。映画自体はあまり売れなかったが、主人公の男を演じた俳優はこの映画を機に爆発的に売れた。
ある記者が質問した『どうしたらあんな素晴らしい演技ができるのですか』に俳優は心底嬉しそうに笑って答えた。
その答えはただの冗談として流された。だが、察しのいい人ならきっと気づいただろう。ゾッとするくらい残酷な答えをあんな表情で、澄みきった瞳で、さも当然のように言えるものか。
 役者で、演技だったとしても、気味が悪いったらない。



               【題:澄んだ瞳】

7/26/2024, 1:15:26 AM

骨髄穿刺痛い
今回3回目だったけど初めて号泣した
麻酔の効かない骨の中に針刺すのやめて
そもそも麻酔から痛いのは卑怯でしょ
だから病院が嫌いなんだよ
検査はもっと嫌い

                【題:鳥かご】

7/23/2024, 2:31:50 PM

 わたしの担当は『青いバラ』だ。

 ここは花を育てて出荷する場所。たくさんの検体がそれぞれの花を育てて、それをかご係の子どもが集めて出荷の準備をする。
 検体というのは特定の花を身体に生やすことができる人造人間らしい。噂好きのユリがそう言っていた。

 ――人間の暮らす地上は荒れ果て、シェルター無しでは生きられない。どこもかしこも人工物だらけのシェルターに嫌気がさした我々は癒しを求め、昔の文献をもとに植物を復活させた。そうして復活したのがお前達だ――

 仕事はわたし達の成り立ちを読み上げてからはじまる。

「お前は我々の自信作だ。植物が土に自生していた時代ですら難しかった花が蘇ったんだ」

 最近できたばかりのわたしは、白い服を着た人間たちに囲まれながら仕事をする。花を1本1本検品し、身体の異常や疲労具合を調べられ、その都度調整が行われる。
まだわたししか担当がいないからすごく忙しい。はやく検体を増やしてほしいものだ。

 それにしても、たった1本の花に何万何千万の大金を支払うなんて人間は変わってる。そんなに欲しいのなら身体から生やせばいいのに。変なの。


              【題:花咲いて】

7/21/2024, 2:43:47 PM

 ―朱色の目と銀糸のような髪をもつ、銀朱姫

 珍しい色をした器量のいい女は、姫にまで上り詰めた。
国の象徴である金魚姿の女神とよく似た色をしていたというだけの話だ。要は、落ちた権威を高めるための道具である。

 女は美しく飾り付けられた姿を曝すたびに嫌悪感をつのらせた。銀朱姫、銀朱姫、と己の名前ではない名前でしか呼ばれない。衣装や容姿だけをみて目も合わない。挨拶はしても会話はない。そんな日々を過ごすうちに女は自身が壊れていくのを感じていた。
 だから、あれは起こるべくして起こったことなのだ。

 約束を破った権力者たちが死に絶え、迷信を信じきった狂信者たちは門扉に吊られ、傍観を貫いた者たちは目を焼かれた。
女を銀朱姫と呼ばず、実の母のように慕った子供たちは楽しそうに笑う。ある子は鉄線を手に、ある子は熱した鉄を手に。それまで受けてきた苦しみを大人たちに返した。

「――さま、――さまのおかげだよ、ありがとう」

 そう言って子供たちは女を囲んで泣いた。
少し歪な花冠と丈の合わない白いドレスに身を包んだ女は微笑んでいた。よく見るとドレスには白い糸でたくさんの刺繍が施されている。

「わたしのほしいものをくれた、うれしい」

 ―その日ある国が滅び、新たな国が建った


             【題:今一番欲しい物】

7/15/2024, 10:49:07 AM

 例年よりもはやく梅雨入りした年だったかな。
どうしようもなく落ち込んで、自力で這い上がることもできないどん底に重りと一緒に縛り付けられているような最悪な状態になったことがあるんだ。

 月明かりもない真っ暗な夜で、雨も降っていたと思う。雨音は好きだったから雨粒が降り込むのも気にせず窓を全開にした。屋根やアスファルトにぶつかる音も、頬に当たる冷たさも、湿った空気も、その匂いも。自分をきれいに洗い流してくれているようで心地よかった。

 すっかりぬるくなった缶チューハイと大量の錠剤を手に、ずっとずっと外を眺めていた。あのときほど穏やかな一時は後にも先にもありはしないだろう。
どん底にいながら幸せをみつめていた。ただの幻想であっても、現実ではありえないものでもいい。自分への手向けだと思えば素敵な土産でしかなかった。

 まあ、その2日後には多少の記憶障害を残しつつも生き残ってしまったからね。今だらだらと書いたこの話もどこまで本当なのかわかったものじゃない。
 ただ終わりにしようと思ったことは事実だ。
 誰にも理解されず疎まれるだけの惨めなだけの事実だ。
 いつも、いつまでも、このどん底には雨が降ってる。
 それだけでいいんだ。


            【題:終わりにしよう】

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