シシー

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 ―朱色の目と銀糸のような髪をもつ、銀朱姫

 珍しい色をした器量のいい女は、姫にまで上り詰めた。
国の象徴である金魚姿の女神とよく似た色をしていたというだけの話だ。要は、落ちた権威を高めるための道具である。

 女は美しく飾り付けられた姿を曝すたびに嫌悪感をつのらせた。銀朱姫、銀朱姫、と己の名前ではない名前でしか呼ばれない。衣装や容姿だけをみて目も合わない。挨拶はしても会話はない。そんな日々を過ごすうちに女は自身が壊れていくのを感じていた。
 だから、あれは起こるべくして起こったことなのだ。

 約束を破った権力者たちが死に絶え、迷信を信じきった狂信者たちは門扉に吊られ、傍観を貫いた者たちは目を焼かれた。
女を銀朱姫と呼ばず、実の母のように慕った子供たちは楽しそうに笑う。ある子は鉄線を手に、ある子は熱した鉄を手に。それまで受けてきた苦しみを大人たちに返した。

「――さま、――さまのおかげだよ、ありがとう」

 そう言って子供たちは女を囲んで泣いた。
少し歪な花冠と丈の合わない白いドレスに身を包んだ女は微笑んでいた。よく見るとドレスには白い糸でたくさんの刺繍が施されている。

「わたしのほしいものをくれた、うれしい」

 ―その日ある国が滅び、新たな国が建った


             【題:今一番欲しい物】

7/21/2024, 2:43:47 PM