今日のお題みて思い出した
―柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規
まだ夏なのに柿が食べたくなる
京都にも行きたくなったけど盆地で暑いから写真みて観 光したことにしとく
暑すぎて出掛けたくない
冷したラムネ飲みたい
夏のフルーツは足が早いからはやく秋になってほしい
食欲の秋したい
なんの話しも思いつかなかった
どんなお題でも小説風のなにかを書けるようになりたい
この煩悩を年末の鐘で浄化しないといけない
欲が目標になったら最速で叶いそうなのに勿体ない
【題:鐘の音】
『つまらないことでも続けていればどうにかなる』
そんなの幻想でしかなかった。
どれだけ努力しようと結果がでなければ何の意味もない。
頑張ったという過去しか残らない。それを誇らしいなんて思えるのはずっと先だ。
今はまだ無駄な時間を過ごしたとしか思えない。
何かつらいことでもあったのか、とはよく聞かれる。
実際は人間なら誰でも経験するような取るに足らないつらさなのに、僕は堪えられなかった。
今では他人の笑い声をきくだけでゾッとし、こちらを値踏みするようにみてコソコソと話す姿をみるだけで冷や汗がとまらない。そんな些細なことがトラウマになるなんて生きづらいことこの上ないのだ。
他人の要望にはできるだけ応えてきたし、頼まれればなんでもやった。犯罪まがいなことはなかっただけマシだけど、当然のように見下されて叩かれるのは心も肩も痛くてしかたなかった。
いつからか何をしてもつまらないと感じるようになった。
どうせいつか取り上げられてしまうなら頑張る理由も努力する意味もない。自分のためではなく他人のものにされるのになぜ僕がやらなければいけないのか。
そう思うようになってから、好きだったことも手につかなくなった。
書いていた文字を消し、描いていた絵を破いて、机の上にあるもの全てを押し入れにしまいこんだ。
編み途中のモチーフも刺し途中の刺繍も未完成のまましまった。かろうじて残ったお菓子作りの本は暇つぶしに眺めるだけで、店で買ってきたお菓子を食べながら放り投げる。
だってつまらないのだ。何をしても無駄でしかない。
でも、忘れるにはあまりにも眩しすぎて手放したくない。
そんな中途半端なまま、好きなことを嫌いだ苦手だと嘘をついて日々を過ごす。
僕はみんなが言う通りの嘘つきだ。
【題:つまらないことでも】
目が覚めるまでに、か
恋愛とか親愛、家族愛や友愛などなど『愛』がつくものを全力全身で叫びちらしたいかな
身近だから伝えるのが気恥ずかしいというのも理由ではあるけどそんなに可愛らしいものではない
もっとこう、目に見えない感情がそこに実在することを証明する難しさを考えずに吐き出したいのだ
ただ『愛してる』と叫ぶのでは何の説得力もないし、私が抱いてる感情をそのまま相手にも伝えたいのに全く理解してもらえない状況になりかねない
文章だけだと重たい愛に感じるだろうが、たぶん誰かが思い描いてるような愛よりずっと薄情なものだよ
愛よりも、それを正確に伝えたいという部分に執心しているから質の悪い完璧主義者と言われたほうがしっくりくる
シンプルだけど正確に伝えられる方法はないか
今、私はきっと夢をみていて目の前の人たちに伝えたいことがたくさんある
でも何をどう言えば伝わるのか悩んで迷っているのだ
口から出た言葉は戻せない、だから迷う
正直に愛してることを白状したらいいのか、それ故に憎んでいることもあると吐露していいのか
私には分からないんだ
目が覚めるまでに言えるだろうか
この夢が終わるまでに選べるだろうか
―愛しているからこそ、終わらせたいこと
―愛していないからこそ、続けられること
どこからどこまで言えば私の気持ちは伝わるのか
夢の中でまで優柔不断だなんてリアルだな
泣き出してしまいそうだよ
【題:目が覚めるまでに】
私は子どもの泣き声を聞きたい
暗い部屋にいるはずの子どもに泣いて縋りついてきてほ しい
一人で目覚めるのはとても寂しい
毎朝ポコポコと蹴って起こしてくれたじゃない
足先もみえないほど大きくなって存在を主張していた じゃない
重くなっていく度にどんなに腰を痛めたことか
ねぇ、なんでここには私しかいないの
私の腹はぺたんこになって足先までよくみえるのに
隣には小さなベットまであるのに中身は空っぽ
よく覚えている
あなたの姿を初めてみたとき私は涙がとまらなかった
痛みと嬉しさと色んなものが混ざった涙
いつまで経ってもあなたは私の隣に来ない
期待が萎んでいって代わりに不安が膨らんでいった
透明な箱の中、いくつものチューブに繋がれる子。
手のひらくらいの小さな胸が電子音に合わせて上下している。固く閉じた瞼はずっと閉じたまま、たまに足をバタつかせる様子をただ見つめている。
看護師がやってきて何か言っているけど、何も頭に入ってこない。透明な箱の小さな扉をあけて促されるまま手をいれた。
小さな頭から頰を指先で丁寧になぞる。ふるりと震えただけの瞼は開かない。拘束されていない方の手がピクリと動いた。チューブに触れないよう気をつけながら小さな手を握る。ほぼ人指と親指でつまんでいるようにしかみえないけれど、これが私たちの握手なの。強い力で握り返される指先は温かい。視界が揺らいでいくのを堪えて目の前の光景だけをみつめる。絶対に見逃さない、見逃してなるものか。
「はやく、泣き声が聞きたいなぁ」
小さな小さな私の子。大きな声で泣いて笑って私を呼んでちょうだい。そうしたらすぐに飛んできて抱きしめるから、目をまん丸に開いて驚いてくれたら嬉しいな。
こんな箱の中なんて退屈でしょう。私はもうすぐ出ていかなきゃいけないから寂しくて堪らないの。あなたも一緒でないとダメなの。
だから、はやく泣いてちょうだい。
【題:病室】
―可哀想に
そうですね。とても可哀想です。
―情けない
そうですね。すごく情けないです。
―どうして
とうしてでしょうね。全く検討がつかないです。
ズルリ、ズルリと音を立てて黒い布が剥がれ落ちていく。
ようやく見えてきた中身はボロボロで今にも崩れてしまいそうだ。どこもかしこも傷だらけできれいなところなど見当たらない。ただのガラクタ、ゴミ同然のもの。
途中で拾ったテープでヒビを隠し、欠けたところには布を裂いて詰め込んでいく。
テープにはとてもきれいな言葉がぎっしりと隙間なく印刷されている。幸せを説き、素晴らしいものを並べ立て、喜びを分け与えるようにできている。
そして裏側にはベッタリと張り付いて離れない執着がある。
真っ黒な布には何重にもなった記憶が画かれている。
何が画かれているのか読み取れなくなるまで重ねられていて、それがどんな記憶だったのか思い出せない。
だけどずっと纏っていたいくらい温かなものであることは確かだ。
淡々と貼って詰めてを繰り返す。
きちんと元通りになるようにしっかりと丁寧に作業する。
誰に邪魔されようとやり遂げなければいけない。決められたことを守り、与えられたものを大切にするのだ。
黒い手が肩を叩く。ポンポンと優しく呼びかけるように何度も何度も叩いてくる。そしてとんでもないことを囁くのだ。テープを貼る手を止めてくれ、布は詰め込むものではないから止めてくれ、と。弱々しい声で縋るように囁いてくる。
いい加減、鬱陶しくなってきて作業する手を早めた。丁寧さなんて二の次でいいからはやく終わらせたい。この黒い手と囁きから解放されたい。これ以上邪魔されたら、
「明日、もし晴れたら―――」
「え?」
思わず振り向いてしまった。だってそれは、あまりにも魅力的な誘いだったから。テープに印刷された言葉よりも、黒い布の温かさよりもずっとずっと甘美なものだったから。
テープを投げ捨てた。しつこい粘着が手について離れないけどもう関係ない。
布を踏みつけた。気を抜くと絡みついてきてきつく縛りつけてくるから大嫌いだったんだ。
黒い手の主は優しく微笑んでいる。
ああ、黒くみえていたのは手袋をしていたからだったんだ。そうだよね。あんなベタベタしたものを直接触るなんて嫌だもの。
うん、あんな布きれよりもこの手の方が温かいよ。自分の体温で温めていただけで本当は温度なんてなかったんだ。
黒い手が赤い紐を差し出し、プレゼントだといった。
そして自分の首を指さして、こう使うんだと説明した。
同じように巻きつけたら、褒めてくれた。
手を差し出されたから握った、握り返された。
嬉しくて嬉しくて久しぶりに声をだして笑った。
「明日は晴れだといいね」
次の日は晴れだった。
みんな黒い服を着て彼を囲んでいた。泣いたり怒ったり、意味のない問いかけをしてを繰り返している。
幸せそうに笑いながら横たわる彼の首には赤い紐の痕がある。
「…晴れてよかったね」
【題:明日、もし晴れたら】