鶴づれ

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9/14/2023, 1:37:09 PM

命が燃え尽きるまで


 たった二ヶ月、仲良く遊んでいただけなのに。僕の心の全てをさらっていった女の子。
 どうしようもない僕を救ってくれた、神様みたいな人。

 もう二度と、戻れないと思うけど。僕は大丈夫。
 あの二ヶ月を糧に生けていけるよ。救ってくれて、ありがとう。

 だから、今度は僕の番。

 僕のことなんて振り返らなくていい。幸せになってよ。

 悪いものは、全部僕が引き受けるから。

 人生をかけて、君を守ってみせるから。

 どうか。命が燃え尽きるまで、優しい世界の中にいて。

9/14/2023, 4:45:03 AM

夜明け前


 夜明け前に起きる時は、特別な日の始まりになる。

 旅行に出発する日と、初日の出を見る日。

 年に数回しかないけれど、その分夜明け前の空の色が特別に見える。

 特別の象徴が、夜明け前だ。

9/13/2023, 8:52:01 AM

本気の恋


 赤い日がさす放課後。人目につかない校舎裏。
 君に救われてからちょうど一年後、話があるからと、君を呼び出した。
 待ち合わせの三十分は前に着いて、ずっと君に伝える言葉を反芻している。
「悪い、待たせたな」
 いつもの楽しそうな雰囲気をまとって、君はやってきた。
「いや、私が早く来すぎただけ」
「そっか」
 私がそう返すと、君はにかっと笑ってくれた。
「それで、話って何?かしこまっちゃってどうしたのさ」
「話っていうか、私が一方的に伝えたいことなんだけど…」
 君の目を見て、伝えたかった言葉を吐き出す。
「私、君が好きなの」
「は…?」
 君は目をぱちくりさせる。
「一年前、君が救ってくれてから、ずっと好きなんだ。恋人になりたいって思ってる」
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
 君が浮かべているのは、さっきの爽やかな笑みではなく、引きつった苦い笑い。
「なんかの罰ゲームとかに巻き込まれた?嘘告なんてするやつじゃないだろ」
「嘘じゃないよ。どうして…?」
「いや、俺ら男同士じゃん」
 君が突きつけたのは、一年前に君がくれた言葉。
「お前、一年前、男になりたいって悩んでたんじゃねーか。女が好きなんじゃねーの?」
「えっ…」
「罰ゲームに巻き込んだの、どうせいつもつるんでるあいつらだろ?俺からやめろって言っとくから。じゃーな」
 まだ状況を飲み込めない私を置いて、君は行ってしまった。
 確かに、私は体は女で、だけど男になりたいって思ってた。それを一年前、君が肯定してくれた。「俺らは男同士だろ」って。だから、私は私でいられるんだよ。
 それなのに…。
「なんでよ…」
 君が否定しないでよ。君なら、私のことそういう目で見られなくても、受け止めてくれるって思ってたのに。
 嘘なんかじゃない。信じてよ。

9/11/2023, 1:35:45 PM

カレンダー


 書店にカレンダーが並ぶ季節がやってきた。

 正直、買うのは年末になってからだし。
 気に入ったデザインのカレンダーがあるかよりも、去年買ったものと同じものがあるのかの方が重要だったりする。

 それでも書店にカレンダーが並ぶ季節というのは。

 今年の残りのカレンダーの少なさに驚き。
 来年のカレンダーが程よく埋まることを、ひっそりと期待する時期なのだ。

9/11/2023, 3:27:10 AM

喪失感


「たくさん山菜取ってくるから。お米炊いて待ってて!」
 姉がそう言って山へ入ってから、どのくらい経っただろうか。
 しばらくすればその時の様子なんて忘れてしまうような、日常の会話の一つだった。実際、私もその時の姉の顔なんて覚えてない。
 これが、姉との最後の会話だなんて思わなかったから。

 姉の帰りが遅いな、と思っていた頃。知り合いの猟師が訪ねてきて、姉の死を教えてくれた。帰ってきたのは、姉の使っていた籠と着物の切れ端だけ。熊に食われたそうだ。猟師が駆けつけた頃には、時すでに遅し。血に塗れた着物と、籠と少しの山菜が転がっていたらしい。
 誰を恨めるわけでもない、自然の中の事故だ。

 恨みも憎しみも生まれないならば、今あるのは姉を失ったという喪失感だけ。
 それがこんなに情けなくて惨めだなんて、知らなかったな。

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