鶴づれ

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本気の恋


 赤い日がさす放課後。人目につかない校舎裏。
 君に救われてからちょうど一年後、話があるからと、君を呼び出した。
 待ち合わせの三十分は前に着いて、ずっと君に伝える言葉を反芻している。
「悪い、待たせたな」
 いつもの楽しそうな雰囲気をまとって、君はやってきた。
「いや、私が早く来すぎただけ」
「そっか」
 私がそう返すと、君はにかっと笑ってくれた。
「それで、話って何?かしこまっちゃってどうしたのさ」
「話っていうか、私が一方的に伝えたいことなんだけど…」
 君の目を見て、伝えたかった言葉を吐き出す。
「私、君が好きなの」
「は…?」
 君は目をぱちくりさせる。
「一年前、君が救ってくれてから、ずっと好きなんだ。恋人になりたいって思ってる」
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
 君が浮かべているのは、さっきの爽やかな笑みではなく、引きつった苦い笑い。
「なんかの罰ゲームとかに巻き込まれた?嘘告なんてするやつじゃないだろ」
「嘘じゃないよ。どうして…?」
「いや、俺ら男同士じゃん」
 君が突きつけたのは、一年前に君がくれた言葉。
「お前、一年前、男になりたいって悩んでたんじゃねーか。女が好きなんじゃねーの?」
「えっ…」
「罰ゲームに巻き込んだの、どうせいつもつるんでるあいつらだろ?俺からやめろって言っとくから。じゃーな」
 まだ状況を飲み込めない私を置いて、君は行ってしまった。
 確かに、私は体は女で、だけど男になりたいって思ってた。それを一年前、君が肯定してくれた。「俺らは男同士だろ」って。だから、私は私でいられるんだよ。
 それなのに…。
「なんでよ…」
 君が否定しないでよ。君なら、私のことそういう目で見られなくても、受け止めてくれるって思ってたのに。
 嘘なんかじゃない。信じてよ。

9/13/2023, 8:52:01 AM