世界に一つだけ
「世界に一つだけのものって、なんだろう」
帰り道、隣を歩く親友に問いかける。
彼は詩を作るのが好きで、美しい言葉でも文学でも、たくさんの引き出しを持っている。そんな彼が知っている言葉を聞きたくて、引っ張り出した問いだった。
「世界に一つだけ…?なんだろう…」
顎に手を当てて、彼は深く考え込む。
「…世界、とか」
数分かけて、彼の答えを教えてくれた。
「世界?」
「そう。今僕らがいるこの世界って、これだけなんじゃないかな」
「並行世界の話とか、よく聞くけど」
「でも、それはこことは何かしら違うんだろう?同じじゃない」
そもそも存在しているのかすら知らないしね。と、彼は付け加えた。
世界に一つだけしかないものは、世界。確かに、面白い答えだ。
「なにか、不満そうじゃないか?」
彼がにやりと笑って僕を見る。
「いや…。もっとこう、命とか、人生とかって言われるかと思った」
むしろそれを僕に説明する彼の言葉の方に、興味があったのに。
「大きな目でみれば、生き物の命も人生も、どれも似たようなものだろう」
彼は、はは、と笑いながら一蹴してしまった。
「…それこそ、世界からみれば?」
僕がそう聞き返すと、彼はまた笑った。
「そうだな」
僕もつられて笑った。
胸の鼓動
どくん、どくんと血が流れる音がする。
胸は高鳴る、それでも頭はどこか静かだ。
今日のために知識を蓄え、頭脳を磨いてきた。
仲間を信じ、思いを託され、この舞台を目指してがむしゃらに走った。
あとは、頂点を取るだけだ。
この熱い心臓を抱えて、この冴えた脳を信じて。
高校生クイズによせて
踊るように
踊るように飛ぶ蝶が好き。
自由で、美しく。繊細で、でも力強く。
私は、そこまで自由じゃないし。醜く足掻くことしかできないし。ただ弱いだけだから。
それでも。いつか。
醜く足掻いて自由を得て。強くなって、誰かに優しくいられたら。
蝶みたいに、なれるかな。
時を告げる
ゴーン、ゴーン、ゴーン…。
古い振り子時計が厳かに時を告げる。
今、三時になったのかと布団の中で思う。
十二時に布団に入ってから、時計が鳴るのは三回目だというのに、全く眠れる気配がしない。どうしたものか。
眠るのを諦めて活動しようにも、三時にご飯を食べて動画を見て、というのも不健康な感じがして嫌だ。
…そうだ、もう一度時計が鳴ったときに起きていたら、諦めて朝ごはんを買いに行こう。四時なら早起きで許せる気がする。
今日は休暇だ。早く起きたって、遅くまで寝ていたって、どちらでも構わないし。
心地よい眠りを得ても、大好きな時計の音を聞いても。
貝殻
夏になると、ビニール袋をもって近くの海へ行く。
裸足で砂浜を駆け回り、綺麗な貝殻を選んでビニール袋にしまう。
白や紫、オレンジに黒。何に使うわけでもない貝殻を片手に、家へ走る。
祖母に貝殻のはいった袋を見せて、綺麗だねと言ってもらう。
二度と戻ることはできない、無邪気な夏の一日。