きらめき
ある日、突然体が軽くなった。
今までずうっと暗い海の底に沈んだように、なにもかも重くてどうしようもなかったのに。今はこんなに軽やか。
なんでだろう?ううん、なんでもいいや。
動けるのって、幸せだもん。
そうだ。せっかく軽くなったんだから、君のところへ行こう。初恋の君。もうずいぶん会ってない気がするよ。
ふわりと体を浮かせて、君の家へひとっ飛び。
住宅街の端っこに、変わらず君の家はあった。
お空が赤い。夕方だね。もう帰ってるかな?
…あっ!いた!高校生みたいな服を着て、大きなリュックを背負って、女の子と一緒に歩いてる。すごくお兄さんになってるけど、君だよね?顔はそのまんま。
…あと、その子はだぁれ?新しいお友達?紹介してほしいな。
(おーい!久しぶりっ!)
大きく手を振って、君に向かって叫ぶ。
でも君は、女の子と話をやめてくれる気配はない。
(おーいっ!)
私の方には見向きもせず、女の子とこっちへ歩いてくる。どうして無視するの?
君はとうとう目も合わせず私の真ん前まで来て…。私を通り抜けてまた歩いていってしまった。まるで、私がそこにいないみたいに。
…いや、もうわかっちゃった。私、幽霊になっちゃったんだ。だから、君には見えなくなったんだね。
そして、私がいなくても楽しそうにしてるんだね。
振り返ると、君は女の子に笑いかけて、家に入っていった。
その笑顔、すごくきらきらしてるね。私には眩しいよ。
私の瞳からも、きらきらしたものが一つ、二つと落ちてくよ。これ、なんだろうね…。
些細なことでも
ちょっとお腹が痛いだけでも、なんとなく気分が乗らないだけでも、少し眠いなっていうだけでも。
「大丈夫?」「どうしたの?」「つらくなったら言ってね」って言ってくれる君。
こんな些細な私の変化に、どうして気付いてくれるんだろう?
心の灯火
心の灯火が弱くなったとき
誰かが油を注いでくれるような
誰かが風を送って励ましてくれるような
心の灯火が熱く燃えているとき
誰かをあたためられるような
誰かに火を分けてあげられるような
心の灯火が消えてなくなったとき
誰かが燃え殻を集めてくれるような
誰かが私の火を惜しんでくれるような
そんな命を生きたい
不完全な僕
君と別れた。
君が家を出ていった。
朝、君が起こしてくれることはなくなった。
美味しい朝ごはんも、弁当もなくなった。
シワのないシャツも、揃えられた靴下もなくなった。
おかえりと言ってくれる君もいなくなった。
手作りの味の晩ごはんも、暖かい風呂もなくなった。
そしてなにより、心を埋めてくれる君がいなくなった。
君がいなくなっただけで、僕は何もできなくなってしまったよ。
香水
首筋に、シュッと香水を一吹き。
ふわりと優しい桜の香りが広がる。
先輩にもらったこの香水、私に似合うかな?
先輩みたいな、優しい人になれるかな?