鶴づれ

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世界に一つだけ


「世界に一つだけのものって、なんだろう」
 帰り道、隣を歩く親友に問いかける。
 彼は詩を作るのが好きで、美しい言葉でも文学でも、たくさんの引き出しを持っている。そんな彼が知っている言葉を聞きたくて、引っ張り出した問いだった。
「世界に一つだけ…?なんだろう…」
 顎に手を当てて、彼は深く考え込む。
「…世界、とか」
 数分かけて、彼の答えを教えてくれた。
「世界?」
「そう。今僕らがいるこの世界って、これだけなんじゃないかな」
「並行世界の話とか、よく聞くけど」
「でも、それはこことは何かしら違うんだろう?同じじゃない」
 そもそも存在しているのかすら知らないしね。と、彼は付け加えた。
 世界に一つだけしかないものは、世界。確かに、面白い答えだ。
「なにか、不満そうじゃないか?」
 彼がにやりと笑って僕を見る。
「いや…。もっとこう、命とか、人生とかって言われるかと思った」
 むしろそれを僕に説明する彼の言葉の方に、興味があったのに。
「大きな目でみれば、生き物の命も人生も、どれも似たようなものだろう」
 彼は、はは、と笑いながら一蹴してしまった。
「…それこそ、世界からみれば?」
 僕がそう聞き返すと、彼はまた笑った。
「そうだな」
 僕もつられて笑った。

9/10/2023, 8:12:55 AM