鶴づれ

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7/25/2023, 12:09:41 PM

鳥かご


 私のクラスメイトは、完璧な優等生。

 いつもにこにこ笑ってて、誰にでも優しくて、成績は常に学年トップ。
 部活でも委員会でも輪の中心でみんなをまとめて、先生からの信頼も厚い。
 ネットに入り浸ることもなく、時間の管理も自分でできる。
 誰の理想もこぼすことなく受け入れて、作り上げたような女の子。
 私みたいな暗い子とは、天と地ほども離れた人。

 そう思っていたんだけど。
 見ちゃったんだ。貴女の顔から感情が消えていくところ。ついさっきまで、友達といつものにこにこ笑顔で話してたのに。

 無理してたんだ。
 貴女は完璧な優等生なんかじゃなかった。
 鳥かごに閉じ込められた、私と変わらないただの高校生の女の子だった。

7/24/2023, 11:58:16 AM

友情


 僕は君を友達だと思っていた。

 でも、君は違った。

 恋愛じゃないよ。

 家族だと思っていたんだって。

 それなら、僕らの間の感情に、名前をつけるならなんだろう。

 友情?家族愛?

 …なんでもいいや。

 僕と君は仲が良い。それで十分じゃないか?

7/23/2023, 1:22:25 PM

花咲いて


 夏の青空の真下で車を走らせていると、ふと視界の端に鮮やかな黄色が映った。

「わあっ!ひまわり畑だよ!」

 助手席の君が、それこそひまわりのような明るい声をあげる。隙を見て彼女に視線を移すと、弾けた笑顔が眩しかった。
 窓の奥、橋の下に咲くひまわりを、そのまま移し取ったよう。

「ねぇ、見える!?…あっ、でも、運転中なの忘れてた!ごめん!」
 もう目線は真っ直ぐ前に戻したのに、彼女のちょっと慌てる様子が目に浮かぶ。

「大丈夫、さっき見たよ。綺麗だった」
 君のように、なんてキザな台詞は言えなかった。

「見えた?よかった。私、ひまわり大好きなんだよね〜。ここ通ってくれてありがとう!」
「どういたしまして」

 むしろ、喜んでくれた君にありがとうと伝えたい。君の、嬉しそうな顔が好きだから。

 一つ、間をおいて、覚悟を固めた。

「…なぁ。降りて、もっとよく見てみないか?」
「いいね!行ってみようよ!」

 バックミラー越しに、君の鮮やかな笑顔が見える。

 ここを通った理由は二つ。
 単に、君の笑顔が見たかったから。
 もう一つは、ひまわりが咲いたら、君に好きだと伝えたかったから。

7/23/2023, 3:12:43 AM

もしもタイムマシーンがあったなら


「ねぇ、もしタイムマシーンがあったら、どうする?」

 下校中、突然親友が変なインタビューみたいなことを聞いていた。
「いきなりどうしたのさ」
 私の戸惑いなんか無視して、親友はあっけらかんと笑う。
「いいじゃん。ほら、色々あるよ。過去に行く?未来に行く?そこにいる人になにかする?ただ見てるだけ?」
 いつもの倍は体を近づけてくる親友に、目線を合わせず答える。

「…いや、乗らない。未来はこれからの楽しみに取っておきたいし、過去を変えれば絶対どこかが歪んじゃうから」
「え〜!見るだけなら?」
「興味ないかな」
「冷めてるね〜」

 淡々と答えた私を、親友は面白そうに見る。

「でもさぁ、私、何回も見てるんだよね」
「何を?」

「過去に入り浸った私を、迎えに来る君だよ」

 親友の瞳が、愉快そうに細められた。
「過去の君といる私が、一番幸せなのにね」

「ひどいね、未来の君は」

7/21/2023, 8:05:38 AM

私の名前


 隣の部屋からいつもの怒鳴り声が聞こえる。お父さん、またお母さんを殴ってるんだ。
 こういう時は、息をひそめてじっとしてなきゃ。お母さんが、そうしたら殴られないって教えてくれた。

 こんな家に生まれてからいい思い出なんて一つもないのに、お母さんはまだお父さんを信じてる。私が生まれた時は、すごく喜んでたんだって。
 意味わかんない。お父さんが私にくれたのなんて、名前くらいなのに。

 「もみじ」っていうの。私。
 紅葉の花言葉は、「大切な思い出」
 私に似合わない、大嫌いな名前。

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