鳥かご
私のクラスメイトは、完璧な優等生。
いつもにこにこ笑ってて、誰にでも優しくて、成績は常に学年トップ。
部活でも委員会でも輪の中心でみんなをまとめて、先生からの信頼も厚い。
ネットに入り浸ることもなく、時間の管理も自分でできる。
誰の理想もこぼすことなく受け入れて、作り上げたような女の子。
私みたいな暗い子とは、天と地ほども離れた人。
そう思っていたんだけど。
見ちゃったんだ。貴女の顔から感情が消えていくところ。ついさっきまで、友達といつものにこにこ笑顔で話してたのに。
無理してたんだ。
貴女は完璧な優等生なんかじゃなかった。
鳥かごに閉じ込められた、私と変わらないただの高校生の女の子だった。
友情
僕は君を友達だと思っていた。
でも、君は違った。
恋愛じゃないよ。
家族だと思っていたんだって。
それなら、僕らの間の感情に、名前をつけるならなんだろう。
友情?家族愛?
…なんでもいいや。
僕と君は仲が良い。それで十分じゃないか?
花咲いて
夏の青空の真下で車を走らせていると、ふと視界の端に鮮やかな黄色が映った。
「わあっ!ひまわり畑だよ!」
助手席の君が、それこそひまわりのような明るい声をあげる。隙を見て彼女に視線を移すと、弾けた笑顔が眩しかった。
窓の奥、橋の下に咲くひまわりを、そのまま移し取ったよう。
「ねぇ、見える!?…あっ、でも、運転中なの忘れてた!ごめん!」
もう目線は真っ直ぐ前に戻したのに、彼女のちょっと慌てる様子が目に浮かぶ。
「大丈夫、さっき見たよ。綺麗だった」
君のように、なんてキザな台詞は言えなかった。
「見えた?よかった。私、ひまわり大好きなんだよね〜。ここ通ってくれてありがとう!」
「どういたしまして」
むしろ、喜んでくれた君にありがとうと伝えたい。君の、嬉しそうな顔が好きだから。
一つ、間をおいて、覚悟を固めた。
「…なぁ。降りて、もっとよく見てみないか?」
「いいね!行ってみようよ!」
バックミラー越しに、君の鮮やかな笑顔が見える。
ここを通った理由は二つ。
単に、君の笑顔が見たかったから。
もう一つは、ひまわりが咲いたら、君に好きだと伝えたかったから。
もしもタイムマシーンがあったなら
「ねぇ、もしタイムマシーンがあったら、どうする?」
下校中、突然親友が変なインタビューみたいなことを聞いていた。
「いきなりどうしたのさ」
私の戸惑いなんか無視して、親友はあっけらかんと笑う。
「いいじゃん。ほら、色々あるよ。過去に行く?未来に行く?そこにいる人になにかする?ただ見てるだけ?」
いつもの倍は体を近づけてくる親友に、目線を合わせず答える。
「…いや、乗らない。未来はこれからの楽しみに取っておきたいし、過去を変えれば絶対どこかが歪んじゃうから」
「え〜!見るだけなら?」
「興味ないかな」
「冷めてるね〜」
淡々と答えた私を、親友は面白そうに見る。
「でもさぁ、私、何回も見てるんだよね」
「何を?」
「過去に入り浸った私を、迎えに来る君だよ」
親友の瞳が、愉快そうに細められた。
「過去の君といる私が、一番幸せなのにね」
「ひどいね、未来の君は」
私の名前
隣の部屋からいつもの怒鳴り声が聞こえる。お父さん、またお母さんを殴ってるんだ。
こういう時は、息をひそめてじっとしてなきゃ。お母さんが、そうしたら殴られないって教えてくれた。
こんな家に生まれてからいい思い出なんて一つもないのに、お母さんはまだお父さんを信じてる。私が生まれた時は、すごく喜んでたんだって。
意味わかんない。お父さんが私にくれたのなんて、名前くらいなのに。
「もみじ」っていうの。私。
紅葉の花言葉は、「大切な思い出」
私に似合わない、大嫌いな名前。